卒業生コラム
発電現場の課題と対峙して
一般財団法人 電力中央研究所
材料科学研究所 電気化学領域
主任研究員 南島 晋
[PROFILE]
- 2000年 3月
- 北海道大学工学部材料工学科 卒業
- 2002年 3月
- 北海道大学大学院工学研究科分子化学専攻 博士前期課程 修了
- 2012年 4月
- 北海道大学大学院工学院材料科学専攻 博士後期課程 入学
- 2014年 4月
- 東京工業大学理工学研究科材料工学専攻 博士後期課程 転入学
- 2015年 3月
- 東京工業大学理工学研究科材料工学専攻 博士後期課程 修了(博士(工学))
- 2002年 4月
- 財団法人 電力中央研究所 入所 横須賀研究所 機能材料部 配属(研究員)
- 2006年 8月
- 財団法人 電力中央研究所 材料科学研究所 主任研究員
- 2016年10月~2017年10月
- Forschungszentrum Jülich GmbH 客員研究員
最初の試練
私は今の職場で主に火力発電材料の高温ガス腐食に関する仕事に携わってきました。この仕事が始まったのは、今の職場に入所して1年が過ぎた頃でした。当時、国内の多くの石炭火力発電所において、石炭が燃焼した際に発生する1000℃以上の高温ガスによりボイラ内の金属材料が腐食するという損傷が頻発しました。ひとたび損傷すると発電コスト増に直結するとともに、電力の安定供給にも影響しかねません。どのような条件でどんな速さで腐食するのか、その腐食を検知する方法はないか、腐食を抑制する方法はないかなどの対策が早急に求められていました。職場内にこの分野の専門家がいなかったことから、新人同然の私に声がかかりました。しかし、実験環境を一から整備する必要があったこと、ほぼ単独で研究を進めなければならなかったことから、初期の研究進捗は芳しいものではありませんでした。一方で、発電現場からは速やかな対応策を求める強いニーズがあり、その狭間でもがいていました。
大学での経験に支えられて
そんな中、支えとなったのは大学時代に培った経験や教えでした。最初の実験環境整備の際には、大学研究室で知り得た多くの実験技術がとても参考になりましたし、装置不具合や実験失敗など数々の苦労に対峙した経験のおかげで、多少の遅れや失敗にもあまり動じることもなく、着実に検討を積み重ねることができました。その結果として、現場のニーズに応える一つの解を見出すことができました。また、大学時代の恩師の「自然界の事象を徹底的に観察すること」という教えを胸に、全国津々浦々の発電所に何度も足を運び、自分の目や各種分析装置を通して、実機での損傷はどんな状況でどんな風に起こっているのかを丹念に観察しました。その結果、新たな事実を発見するとともに、その発見を活用してこれまでにない対策技術が提案できました。最終的に得られた成果は現在、多くの発電所で有効活用されています。研究の立ち上げから実機適用まで大変なことばかりでしたが、今思うとこの苦労が自分自身を鍛えてくれたと感じます。そんな試練に巡り合わせてくれたことにも、それを乗り越える支えとなった大学時代の経験や恩師からの教えにも、とても感謝しています。
今求められているもの
以前、ドイツのForschungszentrum Jülich GmbHという研究所に客員研究員として1年間赴任しました。所属したのは質の高い成果を発信し続けている世界最高の研究グループの一つです。色々なことを学びましたが、中でも特に印象的だったのが、タイムリーなテーマで成果をあげる一方で、流行から外れても本当に必要と思う研究が長期間継続されていたことでした。優れた仕事の裏には膨大な地道な作業があることを痛感しました。どんな仕事でも時流に乗った成果を短期間に求められることが多い昨今ですが、根気よく信念をもって継続することこそが今の世の中に必要だと思います。これから社会に出る皆さんも、あせらず、ゆっくりでもよいので自分の信じる道を進んでください。