鈴木 章先生の紹介

鈴木 章先生

有機合成に革命を起こした研究で、北海道初のノーベル賞受賞

北海道大学名誉教授(元工学部教授)の鈴木章先生が、2010年のノーベル化学賞を受賞しました。受賞理由は、有機物同士を合成するための化学反応「クロスカップリング」の研究です。クロスカップリングは、医薬や農薬、IT機器に不可欠な液晶、新世代の発光材料である有機ELなど、私たちの生活に身近な製品の開発や量産化に大きな貢献を果たしています。

鈴木 章先生の略歴

1930年  北海道鵡川村(現むかわ町)で
生まれる
1959年  北大理学部助手
1960年  北大大学院理学研究科博士課程
(化学専攻)修了
1961年  北大工学部合成化学工学科助教授
1963年  米国・パデュー大博士研究員
(〜65年)
1973年  北大工学部応用化学科教授
1988年  英国・ウェールズ大招聘(しょうへい)教授
1994年  北大を停年退官、北大名誉教授に。
その後は、岡山理科大、倉敷芸術科学大の教授、米国・パデュー大、台湾中央科学院・台湾国立大の招聘教授を歴任
2006年  北大大学院工学研究科特別招へい教授

〔主な受賞歴〕

日本化学会賞(89年)、有機合成化学特別賞(04年)、日本学士院賞(04年)、瑞宝中綬章(05年)、スイスP.Karrer Gold Medal(09年)、北海道新聞文化賞(09年)、文化勲章(10年)

◀ 英文による業績集
(北大出版会刊)2004年

受賞記念会見の様子(2010年10月6日北大事務局)

▲受賞記念会見の様子(2010年10月6日北大事務局)

ノーベル化学賞受賞記念セレモニー(10月7日北大工学研究院)大勢の教職員・学生が祝福に駆けつけた

▲ノーベル化学賞受賞記念セレモニー
(10月7日北大工学研究院)
大勢の教職員・学生が祝福に駆けつけた

ノーベル財団の公式プレス取材(10月25日北大工学研究院)

▲ノーベル財団の公式プレス取材
(10月25日北大工学研究院)

工学研究院の入口にも垂れ幕が掲げられた

▲工学研究院の入口にも垂れ幕が掲げられた

お祝いメッセージ 工学研究院長・工学院長・工学部長 馬場 直志

お祝いメッセージ
▲ノーベル化学賞受賞記念セレモニー後
工学研究院長(左)とともに(10月7日)
 鈴木章先生、ノーベル化学賞受賞および文化勲章受章まことにおめでとうございます。工学部、工学院、工学研究院そして工学部同窓会を代表いたしまして、お祝い申し上げます。
 先生のノーベル賞受賞および文化勲章受章は、1924年に工学部が設置されて以来の最大の快挙であり、工学部関係者にとりましては最高の誇りと思う次第です。
 先生は理学部化学科の助手を経られて、1960年4月に新設された合成化学工学科の助教授として1961年10月に着任されました。そして1973年4月に応用化学科の教授となられました。工学部には1994年3月まで32年半の長きにわたり、研究のみならず教育にもご尽力いただきました。今回のノーベル化学賞の受賞につながる鈴木-宮浦カップリングの論文を発表されたのは1979年で、先生が1965年に米国パデュー大学での2年弱の滞在から戻られて14年が経過しておりました。
 ノーベル化学賞の受賞につながる研究が純粋に本学工学部で行われたということに極めて大きな意義があると思います。このことは、工学部、工学院、総合化学院で学ぶ学生および工学研究院で教育研究に勤しむ教員にとって、大きな励みとなるものです。
 2004年の日本学士院賞受賞及び教育水準の向上並びに学術研究の進展に多大な貢献をされたこと、さらに今後一層の研究の発展が期待されることとして、2006年に工学研究科(現工学研究院)から特別招へい教授の称号を終身にわたり授与させていただいております。
 鈴木先生には、これからも工学部、工学院、工学研究院のためにご指導いただきたく、よろしくお願いいたします。

幾つかの思い出 ◎北工会誌(五八号/平成六年三月)より抜粋

Hydroboration
▲Hydroboration:米国パデュー大学のH.C.ブラウン先生が「有機ホウ素化合物の合成と反応」について書いた本。ブラウン先生は、有機ホウ素化合物の化学の基礎を築き、1979年にノーベル化学賞を受賞。
 一九六二年、或る土曜日の午後のことであった。久し振りに丸善札幌支店を訪ねてみた。その時、化学書の棚に赤黒二色の装丁で学術書らしくない一冊の本を発見した。これが、H.C.ブラウン先生(一九七九年ノーベル化学賞受賞者)の書かれた"Hydroboration"であった。羽田空港から米国に出発する鈴木先生(1963年)
▲羽田空港から米国に出発する鈴木先生(1963年)
何気なく取り出して読んでみると、先生特有の表現で書かれ、面白そうであったので購入して帰宅した。夕食後、読みはじめると止まらなくなったことを今でも思い出す。余り厚い本ではなかったが、今までの経験で学術書を徹夜で読み続けた数少ない本の一冊である。当時、私は前記したように理学部から工学部に移ったばかりであり、新しい職場で、何か新しい領域の研究を始めたいと考えていた時期であったので、一層感激的な衝動を受けたのかも知らない。  ブラウン先生からは研究哲学を含め、多くのことを学んだが、今でも鮮明に思い出されることの一つに「教科書に載るような研究をせよ」と言うお言葉である。なかなかそのような仕事はできるものではないが、今でも座有の銘としている。  …ところがブラウン研から、当方の方法を追試したが、反応は進まないとの報告を受けた。この時、ブラウン先生から送られてきた手紙に書かれていた文章を思い出す。ブラウン研からの手紙  このように矛盾した結果を得たことから、詳細に反応を調べたところ、思わぬことが発見された。米パデュー大で研究に没頭する鈴木先生(1964年)
▲米パデュー大で研究に没頭する鈴木先生
(1964年)
モスクワ赤の広場、Brown先生ご夫妻と(1993年)
▲モスクワ赤の広場、Brown先生ご夫妻と
(1993年)
すなわち、我々が行った反応系で使用した窒素ガス中に含まれていた少量の不純物酸素が反応を促進することが明かになったわけである。
 研究者には、誰にでもセレンディピティに出会うチャンスはあると思う。しかし、その機会を生かすことができるかどうかは、偏に、その研究者の自然を直視する謙虚な心、小さな光をも見逃さない注意力と旺盛な研究意欲が必要であり、さらに加えて、神が与え賜う幸運が大きく関係するのではなかろうか。ただし、ここではっきり言えることは手を抜いては決して、やって来ることはない、と言うことである。

北海道大学サステナビリティ・ウィーク2010 オープニングセレモニー
鈴木 章名誉教授のノーベル賞受賞を祝す会にて(10月25日)

北海道大学サステナビリティ・ウィーク2010 オープニングセレモニー 北海道大学で続けている、サステナブルな社会を作り上げるための催しに、今回初めて参加させていただきました。持続性のある社会を形成する、つまり環境を破壊しないような社会を続けていくということは、私たちの子供や孫の時代、そのもっと先の時代まで関わる、非常に重要な問題です。
 私が専門である化学の社会においても、最近この問題は非常に注目されています。環境を汚さないような方法で化学の務めを果たすという「エコ・ケミストリー」といった考えがありますし、現にそういう方向での研究も盛んになってきております。実際には非常に難しいことでありますが、やはり近い将来、それに添うような努力をして、結果を出していかなければいけないと考えております。もちろんその場合には、我々ひとりひとりが、その精神を肝に銘じ、協力して努力していく必要があるのではないかと思います。
 時宜を得た企画を計画された北海道大学に敬意を表すると共に、ますますサステナブルな社会が発展していくことを期待します。