研究紹介

ごみの問題は、ごみの発生、分別、収集から始まって、中間処理、資源化を経て埋立処分に至る「システム」としてとらえ、適正な技術の選択を行わなければなりません。 本研究室は、ごみの分別から最終処分までをハード(実験,調査,化学分析),ソフト(アンケート,データ分析)両面の手法を用い,総合的廃棄物処理の構築を目標としてさまざまな研究を進めています。

廃棄物問題への総合的アプローチへ

進行中の研究

熱処理技術・(現地調査,ラボ実験)
一般廃棄物焼却施設における六価クロム高濃度化の原因解明

国内の複数の焼却施設において灰ピット内の六価クロム濃度が高濃度化し,放流が困難になっている.灰ピットとは,主に焼却主灰を冷却するための設備であるが,投入物である焼却灰中の何が起因して六価クロム濃度が上昇するのかを明らかにする.

熱処理技術・(ラボ実験)
金属資源の山本還元を目指した溶融飛灰中重金属類の高品位化技術の開発

現在,廃プラスチックを熱源として焼却灰や飛灰を溶融し,スラグの資材化,飛灰からの製錬業での金属回収を行う検討が進められている.しかし,飛灰中には回収対象となる亜鉛や鉛以外に塩素や軽金属類が混入しており,金属回収が難しい状況にある.本研究では,洗浄や化学抽出によって溶融飛灰中金属の高品位化を行う.

福島第一廃炉・(ラボ実験)
ひび割れた炭酸化コンクリートへのCs, Srの長期的浸透評価

福島第一原子力発電所は廃炉に向けた作業が進行中である.原子炉建屋はコンクリート構造物であり,放射性物質がコンクリート中にどこまで浸透しているかで,廃棄物となるか資材として再生利用できるかが大きく異なる.本研究では,実際のコンクリートに近い性状とし,汚染水との接触履歴も踏まえたCs,Srの浸透を評価する.

除染廃棄物・(ラボ実験)
減容化熱処理飛灰中Csのフェロシアン化銅を介した安定化体からのCs溶出

除染廃棄物等は中間貯蔵施設において減容化のための熱処理が行われている.Csを揮発分離させ飛灰中へ濃縮させる工程である.結果として放射能濃度が高くなった飛灰は最終処分に向けてさらなる固型化処理が必要とされる.フェロシアン化銅はCsの選択性が高く,飛灰の安定化に有用である.本研究ではフェロシアン化銅を介して作成される各種固型化体からのCsの溶出挙動を評価する.

除染廃棄物・(シミュレーション)
プルシアンブルーCs吸着体分解液中Csのアルミノシリケートによる不溶化

除染廃棄物の減容化熱処理から発生する飛灰は様々な手法により最終的にセメント固型化体,ジオポリマー固型化体となる.これら固型化体は最終処分後,100年以上(種類によっては300年以上),Csが放出されないように管理される必要がある.しかし,試験では長くても1年程度が限界であり,長期の溶出予測にはモデル化が必須である.本研究では,実験結果に対して適合する拡散モデルを作成し,長期予測を行う.



過去の研究

熱処理技術・(ラボ実験)
二酸化炭素をキャリアガスとする廃棄物の炭化特性(2023年度)

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、廃棄物・資源循環分野でも様々な取り組みが進められている。炭化は500℃前後の無酸素状態で可燃性廃棄物を熱分解し炭化物を製造・回収する技術であり、炭化物は貯蔵可能な固形炭素として多様な利用方法が講じられるため、廃棄物のCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)技術の一つとも言える。本研究では二酸化炭素をキャリアガスとした廃棄物の炭化を行い、炭化物の燃料または素材として品質評価を行うとともに、炭化工程で発生する二酸化炭素の循環利用可能性を検討する。

排ガス処理・(ラボ実験)
ごみ焼却排ガス中の高濃度CO2がHClおよびSOX除去率に及ぼす影響(2023年度)

Oxyfuel燃焼は純酸素とCO2が主成分である排ガスを混合し、廃棄物の酸化剤として炉内へ供給するために、CO2回収に適した燃焼方式として評価されている。しかし、排ガス処理の観点から、HClおよびSOXの中和・除去のためにアルカリ粉末剤を用いる乾式処理において、高濃度CO2がアルカリ剤と酸性ガスの反応に負の影響をもたらす可能性はないだろうか。本研究では、バグフィルター表面の薬剤堆積層(消石灰または重曹)を模擬したラボスケール実験装置を用い、排ガス中のCO2濃度とHClおよびSOXの除去率との関係を明らかにする。

除染廃棄物・(ラボ実験)
除染廃棄物減容化処理で生ずるCs濃縮飛灰直接固型化物からのCs溶出(2023年度)

現在、中間貯蔵施設で実施されている除染廃棄物の減容化熱処理からはCsを高濃度に含む飛灰が発生する(Cs濃縮飛灰)。この飛灰中のCsは溶出しやすく、そのままでは処分できないため、30年以内の県外最終処分を目指して安定化体(最終廃棄体)とする技術開発が進んでいる。それらは飛灰直接コンクリート固型化、ゼオライト吸着体固型化、ジオポリマー飛灰直接固型化、リン酸ガラス化などである。本研究では、2種の飛灰直接固型化体について、公定法、過酷環境模擬といった複数の溶出試験からCs溶出特性を明らかにする。

除染廃棄物・(ラボ実験)
フェロシアン化銅経由Cs安定化体のCs溶出に及ぼす温度の影響(2023年度)

除染廃棄物減容化熱処理で発生するCs濃縮飛灰の安定化体作製技術としてフェロシアン化銅吸着が有望視されている。本吸着剤にてCsを固定後、熱分解処理を行い、さらにセメント、ジオポリマー等で固型化する。濃縮率は5万倍程度となり、最終処分量の大幅低減が可能であるからである。但し、安定化体の放射能濃度は数千万Bq/kgとなり、崩壊熱による温度上昇が安定化体からのCs放出に影響しないか懸念されている。本研究では、フェロシアン化銅のCs吸着体からいくつかの安定化体を作成し、高温条件におけるCsの溶出を評価する。

福島第一廃炉・(ラボ実験)
福島第一原発廃炉によって生ずる廃コンクリートからのCs, Srの脱着特性(2023年度)

廃炉作業から放射性物質に汚染された大量の廃コンクリートが発生することが見込まれている。先行研究ではCs、Srの浸透状況(侵入深度)を明らかにする方法を開発した。残される課題は、侵入したCs、Srが処分される状況で脱着し溶脱するか否かである。本研究では、Cs, Srが吸着したコンクリート廃棄物からの脱着特性を明らかにする。

熱処理技術
竪型ストーカ式炉における廃棄物のO2/CO2燃焼特性に関する研究(2022年度)

2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けて、廃棄物焼却では熱・エネルギー回収による間接的なCO2削減対策だけではなくCO2のネガティブエミッションまで視野に入れた積極的な取り組みが求められている。本研究では、竪型ストーカ式炉をモデルに、廃棄物焼却排ガス中のCO2を濃縮・分離せず直接に回収・利用するための焼却技術としてO2/CO2燃焼の導入可能性を検討する。そのための基礎研究として、ラボスケールのO2/CO2燃焼試験を行い、空気燃焼と異なるごみ分解および排ガス組成の特性を調べる。

排ガス処理
飛灰への蒸気添加によるごみ焼却排ガス中HClおよびSOX除去率の向上(2022年度)

ごみ焼却排ガス中の酸性ガス(HCl、SOX)は、粉末の消石灰をバグフィルター入口の煙道に吹込み、中和・除去することが一般的である。消石灰を用いた先行研究において、排ガス中の水分濃度が高いほどHCl除去率が高くなる傾向が確認された。その結果を実施設に活かせる具体的な方法として、バグフィルターの飛灰堆積層に蒸気を添加し酸性ガスとの反応効率を高める方法を検討する。そのための蒸気温度、添加率等の反応条件と酸性ガス除去率との関係を明らかにする。

薬剤開発
多機能性排ガス処理薬剤としてポーラス炭酸ナトリウムの利用可能性の検討(2022年度)

ごみ焼却排ガス処理のためのアルカリ薬剤として、粗重曹を真空加熱しポーラス炭酸ナトリウムを製造し、HClおよびSOX処理に用いる手法を提案した。ポーラス体といった薬剤の特性から、通常、活性炭等の吸着材を用いて除去できるダイオキシン類や水銀化合物の除去可能性も考えられる。本研究では、ダイオキシンの代替物質としてアントラセンを用いたポーラス炭酸ナトリウムの吸着性能の評価試験を行い、多機能性薬剤としての利用可能性を検討する。

除染廃棄物
各種安定化体(最終廃棄体)からのCsの長期溶出特性評価(2022年度)

現在、中間貯蔵施設で実施されている除染廃棄物の減容化熱処理からはCsを高濃度に含む飛灰が発生する(Cs濃縮飛灰)。この飛灰中のCsは溶出しやすく、そのままでは処分できないため、30年以内の県外最終処分を目指して安定化体(最終廃棄体)とする技術開発が進んでいる。それらは飛灰直接コンクリート固型化、ゼオライト吸着体固型化、ジオポリマー固化、リン酸ガラス化などである。本研究では、こうした各種安定化体のキャラクタリゼーションを実施し、更にCsの長期溶出特性を評価する。

福島第一廃炉
廃炉により生ずるコンクリート廃棄物中のCs, Srの分離定量技術の開発 (2022年度)

廃炉作業から放射性物質に汚染された大量の廃コンクリートが発生することが見込まれている。Cs、Srの浸透状況(侵入深度)を明らかにすることで廃棄物となるコンクリートの量を低減できるが、そのためには、これら放射性物質の浸透状況把握が必須となる。本研究では、Cs, Sr含有廃液に各種の履歴を有するコンクリートを浸漬させ、放射性物質の侵入状況をイメージングプレートにより明らかにし、CsとSrの分離定量手法を確立する。

地球環境
グリーンランドローカルコミュニティに存在するダンプサイトからの環境影響(2022年度)

北極域に存在する小規模集落では適正な廃棄物の処理が行われておらず、オープンダンプに全てを投棄してきた。こうしたダンプサイトが付近の海など周辺環境へ悪影響を及ぼすことが懸念されている。本研究では、現地で浸出水、環境水、悪臭、ガス等を分析し、その具体的影響を明らかにする。(3年目となる研究プロジェクトであるが、この2年間現地渡航できていない。現地調査が引き続き困難な場合は、dの関連研究に変更する可能性がある)

熱処理技術
竪型ストーカ式焼却炉における窒素酸化物の生成・低減メカニズムの解明(2021年度)

廃棄物焼却施設のエネルギー利用高度化を背景に排ガス中窒素酸化物(NOX)の低減策は燃焼技術(排ガス再循環,低空気比燃焼)と無触媒脱硝法が中心となっている。本研究ではごみ層内の還元雰囲気を維持しながらNOXの自己脱硝反応に有利な条件で運転を行っている竪型ストーカ式焼却炉をモデルにごみ層と燃焼室でのNOXおよびその中間生成物の酸化・還元メカニズムを解明し,NOX低減に適した燃焼制御方法を導出する。

熱処理技術
ごみ焼却排ガスの乾式処理におけるCa薬剤と塩化水素の反応機構と薬剤効率利用性の検討(2021年度)

ごみ焼却排ガスの乾式処理に用いられる消石灰と塩化水素の反応生成物は塩化カルシウム(CaCl2)として知られている。しかし,本研究室の実飛灰調査より塩化水酸化カルシウム(CaClOH)が主成分として存在することが確認され,理論上と異なることがわかった。本研究では排ガス処理に用いられるCa薬剤と塩化水素との室内反応実験を行い,中和反応機構を明らかにすると同時に,乾式処理条件下でのCa薬剤有効利用性について検討する。

地球環境
グリーンランドローカルコミュニティに存在するダンプサイトへの温暖化影響(2021年度)

北極域に存在する小規模集落では適正な廃棄物の処理が行われておらず、オープンダンプに全てを投棄してきた(氷の中に廃棄物を封じ込めていた)。温暖化により氷河が溶けはじめ、ダンプサイトからの影響が懸念されているため、具体的影響を現場で調査する。(現地調査が引き続き困難な場合は、文献調査、シミュレーション等で代替する。)

除染廃棄物
回転式加熱炉を用いた除染廃棄物減容化熱処理残渣中のCs難溶性態化(2021年度)

除染廃棄物は量を減らすために減容化熱処理されるが、超高濃度のCs濃縮物が発生する。Csが保管施設から放出するリスクを低下させるためにCsの難溶性態化が望まれる。アルミノ珪酸塩は加熱条件下でCsを難溶性態化することが先行研究からわかっている。本年度は実用化を目指し、ロータリーキルンを用いた検討を行う。

福島第一廃炉支援
廃炉により生ずるコンクリート廃棄物中のCs, Srの侵入機構解明(2021年度)

今後、廃炉作業の進行に伴って、大量の放射性物質に汚染された廃コンクリートが発生することが見込まれている。特に炉内の冷却水と接触しているコンクリートは、Cs, Sr等が表面から侵入しているが、侵入の程度について十分な知見が存在せず、具体的な処理計画が立たない情況にある。本研究では、Cs, Sr含有廃液に各種の履歴を有するコンクリートを浸漬させ、放射性物質の侵入状況をイメージングプレートを用いた実験から明らかにする。

有害廃棄物
都市ごみ焼却飛灰中に含まれる有害重金属のアルミノ珪酸塩による捕捉(2021年度)

都市ごみ焼却飛灰はPb、Cd、Zn等の有害重金属を含む。アルカリ長石は陶磁器の釉薬として用いられ加熱条件下でガラス状非晶質を形成し、その中に重金属を閉じ込める。この機能を使って、飛灰中の有害重金属を捕捉・難溶性態化する技術を開発する。

廃棄物発生
国・自治体における一般廃棄物量減少の要因分析(2020年度)

一般廃棄物の排出量は,2000年をピークに国も自治体も減少を続けている。その理由を,国レベルでは製品等の生産量などの統計値や環境政策との関連,自治体レベルでは有料化等を含む減量化施策とごみフロー変化,組成変化等の関連から,探る。

熱処理技術
焼却灰の酸性ガス除去薬剤の代替として適応性調査(2020年度)

ごみ焼却により発生する酸性ガス処理は,消石灰をバグフィルタ前の煙道に噴霧する乾式法が主流である。薬剤使用量を減らす目的で,CaOやCaCO3を多く含む焼却灰を消石灰代替品として検討し,酸性ガス処理に用いる際の具体的な利用方法を提案する。

有害廃棄物
飛灰中重金属のアルカリ長石を用いた捕捉・難溶性態化技術の開発(2020年度)

都市ごみ焼却飛灰はPb、Cd、Zn等の有害重金属を含む。アルカリ長石は陶磁器の釉薬として用いられ加熱条件下でガラス状非晶質を形成し、その中に重金属を閉じ込める。この機能を使って、飛灰中の有害重金属を捕捉・難溶性態化する技術を開発する。

除染廃棄物
除染廃棄物減容化熱処理から生ずるCs濃縮飛灰中のアルミノ珪酸塩によるCs難溶性態化効率向上(2020年度)

除染廃棄物は量を減らすために減容化熱処理されるが、超高濃度のCs濃縮物が発生する。Csが保管施設から放出するリスクを低下させるためにCsの難溶性態化が望まれる。アルミノ珪酸塩は加熱条件下でCsを難溶性態化する。その効率を更に向上させる。

有害廃棄物
溶融炉耐火物中六価クロム溶出に中性化が及ぼす影響の把握(2020年度)

溶融炉耐火物は有害な六価クロム(Cr6+)を含有する。2019年の研究で、大気との接触や湿潤条件で、pHが低下し、Cr6+の溶出が低下する可能性が見出された。何故、中性化が起こるのかを明らかにし、効果的にCr6+溶出抑制を実現する方法を見出す。