Laboratory of Groundwater and Mass Transport

研究課題

地圏物質移動学研究室では,資源・環境に関わる流体力学・物質移動学の一環として,実験,数値解析,理論解析,新しい計測システムの開発と多岐に渡る研究課題に取り組んでいます.


飽和多孔質体中における微粒子沈降実験 ~複雑な隙間を選択的に沈降する微粒子の不思議なふるまい~

地中の帯水層など,水で飽和した多孔質体中における懸濁物質の重力沈降挙動は資源・環境工学の観点からも重要です.本研究室では,他大学と共同でこのような現象の解明に取り組んでいます.下図は,デモンストレーションとして行った飽和多孔質体中における微粒子 (小麦粉) の沈降実験の様子です.懸濁粒子がある条件を満たすと,礫層の中をまんべんなく垂直に沈降するのではなく,図のように特定の隙間だけを選択的に沈降し,横方向にも移動するようになります.このような不思議な微粒子のふるまいを,移動式レーザーを使った特殊な装置を使って実験的に調べています.


水で飽和した礫層の中の微粒子 (小麦粉) の選択的な沈降
(関連論文)
Gyotoku, T., Masuda, G., Nishimura, K., Harada, S., Tanaka, Y. and Yamamoto, Y., Variation in the Settling Behavior of Particulate Suspension in Saturated Porous Media, J. Porous Med., (2023).
Kurose, Y., Ishizawa, K., Soriano, M. R. and Harada, S., Scale-Independent Model of Gravitational Dispersion of Particulate Suspension in Fractal Channel, Chem. Eng. Sci., (2019).

複雑流路中の溶質分散挙動 ~亀裂や間隙中の溶質の動きを可視化する~

岩盤亀裂のような複雑な形状の間隙中を溶質がどのように移動するのかについての研究は,地圏の移動現象を解明する上で重要です.このような間隙中の溶質分散は,流路中の流れの状態 (速度変動) と分子拡散の双方の影響によって生じることが知られています (Taylor分散).最近の研究によって,たとえ1本の流路でも,その断面形状や壁面の凹凸によって流れ方向の分散係数が数十倍も変化することがわかってきました.図は,吸光光度法を応用して可視化した,さまざまな凹凸を有する微小流路中の銅イオンの挙動を示しています.同じような幅を持つ流路でも,凹凸の振幅や波長,位相の違いによって内部の溶質の移動が大きく変化することがわかります.本研究室では,このような溶質濃度の可視化・定量化装置を使って実験を行っています.このような微視的な観点での研究結果を一般化することによって,地中の汚染物質の分散など,移動現象をともなう環境問題の解決の一助となると考えています.


(関連論文)
Toyama, K., Togi, F. and Harada, S., Mass Transfer from Mobile to Immobile Regions in Irregularly-Shaped Micro-Channels at Low Reynolds Number, Groundwater, (2022).
Togi, F., Kubota, T., Toyama, K., Ishida, A. and Harada, S., Quantitative Evaluation of Solute Dispersion in Irregularly Shaped Micro-Channels, Microfluid. Nanofluid, 24:57, (2020).
Tanikoshi, T., Otomo, R. and Harada, S., Quantitative Evaluation of Mass Transfer near the Edge of Porous Media by Absorption Photometry, AIChE J., 63, (2017).


粘土層の平衡構造と溶解速度 ~放射性廃棄物を安全に処分する (その1)~

放射性廃棄物の地層処分方法の検討が世界中で行われています.地下水の侵入や放射性物質の漏洩を防ぐための人工バリアのひとつとしてベントナイト系材料 (粘土の一種) が用いられることが検討されています.粘土粒子の溶解速度は圧密の状態によって変化することが実験的に確認されており,その主要な要因の1つとして物理的マスキングが挙げられます.物理的マスキングとは,圧密によって粘土粒子の端部が他の粒子によって遮蔽されることで,溶解速度が著しく減少することをいいますが,まだ十分に確認されていません.本研究室では,粘土粒子を模した円板状粒子の平衡構造を数値解析によって求め,粒子端部がどの程度遮蔽されるのかについて検討し,粘土粒子の溶解速度をモデル化しました.我々の溶解速度モデルは我が国の地層処分の物質移行モデルの一部として用いられている他,海外の地層処分母体の年次レポート (SKB report, 2020) においても詳しく紹介されました.

数値解析で予測したmontmorillonite粒子の物理的マスキング領域
(関連論文)
Ishiyama, K., Yamamoto, K., Harada, S. and Yagi, T., Tortuosity in Platelet Particles with Various Structures, Transp. Porous Med., (2023).
Terada, K., Tani, A., Harada, S., Satoh, H. and Hayashi, D., Monte Carlo Analysis of Montmorillonite Particle Structures and Modeling of Dissolution Rate Reduction, Mater. Res. Express, 6, (2018).

多孔質体内部の物質移動測定システムの開発 ~透けて見えるようなを実験装置を作る~

水で飽和した多孔質体中の物質移動に関する新しい測定システムの開発に挑んでいます.スピノーダル分解という相分離現象のシミュレーションにより,人為的要素を排除した多孔質体構造を計算し,その計算結果を設計図に変換し,特殊な3Dプリンタによって透明な多孔質体を作製しました.ただ透明なだけでは光の屈折の影響で中が観察できないため,間隙を満たす液体との屈折率を一致させることにより,中の物質移動が可視化できるようにしました.この方法によって,空隙のサイズを任意にコントロールすることが可能となり,さまざまな多孔質体中の物質移動を明らかにすることが可能となりました.

(左) スピノーダル分解の数値解析結果,(中央) 透明レジンで作製した多孔質体,(右) 屈折率マッチング後の飽和多孔質体
(関連論文)
Gyotoku, T., Iwaguchi, T. Hanya, S., Harada, S., Tanaka, Y. and Yamamoto, Y., Fabrication of Realistic Transparent Porous Media for 3D Observation of Internal Mass Transport, J. Porous Med., (2023).

無線式Lagrangianセンサシステムの開発 ~見えない物体の位置と力を測る~

外部から観察できないような物体の動力学的性質を非接触で直接計測できる,テレメトリシステムを内蔵したセンサ粒子の開発を行っています.各種センサ,信号処理IC,無線モジュールを内蔵したシステムにより,気体中や液体中を自由に運動する物体に作用する位置と力を直接測定することが可能です.本研究室で開発したシステムは,XCTやMRIなど他の内部可視化装置と比較して,圧倒的に安価に構築できるシステムです.現在では,これまで開発してきたシステムを改良して,位置,速度,加速度,角速度の同時測定による3次元の並進および回転運動を含めた物体の6自由度運動への拡張に挑戦しています.


(関連論文)
Yoshimori, W., Ikegai, T., Uemoto, K., Narita, S., Harada, S., Oshitani, J., Tsuji, T., Kajiwara, H. and Matsuoka, K., Non-Invasive Measurement of Floating-Sinking Motion of a Large Object in a Gas-Solid Fluidized Bed, Gran. Matt., 21:42, (2019).
Harada, S., Kobayashi, Y., Sawano, T. and Noguchi, E., Direct Measurement of Fluid Force on a Particle in Liquid by Telemetry System, Int. J. Multiphase Flow, 37, (2011).


砂-粘土混合層の透水性 ~放射性廃棄物を安全に処分する (その2)~

放射性廃棄物の地層処分の人工バリアとして検討されているベントナイト系材料は,扁平な形状の粘土粒子に加えて,シルトや砂,随伴鉱物のような他の粒子も混ざっていることが知られています.このような他の粒子の存在が構造を作り出すことにより,水が流れやすい領域を形成することがあります(silt bridge).本研究室では,砂やシルトのような球形に近い粒子が扁平な形の粘土粒子中でどのように構造化するのかについて数値解析によって調べています.図は,あるサイズの球形粒子が粘土層に混在した場合に,粘土の配向方向に大きな空隙の連結領域 (オレンジ色の部分) を作り出し,透水性が劇的に変化することを示しています.このような砂-粘土混合層の透水性は混在する粒子のサイズや体積濃度に複雑に変化するため,安全な地層処分を行うためには統一的な透水モデルの確立が求められます.


(関連論文)
Yamamoto, K., Ishiyama, K. and Harada, S., Quantitative Evaluation of the Pore Characteristics in Platelet Particle Beds by Pore Network Modeling, Transp. Porous Med., (2023).
Tani, A., Ishiyama, K., Tanii, Y., Harada, S. and Satoh, H., Structural Transition of Various-Sized Sphere-Platelet Mixtures, Phys. Rev. E, 105, (2022).


新しい比重分離法に関する研究 ~無線式センサを使って不可視物体の動きを可視化する~

固気流動層とよばれる小さな粒子を空気で流動化させた装置の中に物体を投入すると,まるで水の中のように,投入物体の密度に応じた浮沈分離が生じます.本研究室では,3大学 (岡山理科大学,大阪大学) との共同研究で,この不思議な現象のメカニズムを解明するとともに,新しい乾式比重選別システムの開発を行っています.このような水を使わない比重分離装置は,水資源に乏しい国や地域における鉱石など選別に役立っています.本研究室で開発したセンサシステムを使って,外部から観察できない固気流動層中の物体浮沈現象を調べています (下図).


固気流動層中の物体浮沈挙動(上:観察結果,下:無線式センサの測定データから再構築したCG画像)
(関連論文)
Katayama, T., Otsuka, Y., Saito, S., Harada, S., Tsuji, T. and Oshitani, J., Three–dimensional Wireless Measurement of Float–Sink Object Motions in a Gas–Solid Fluidized Bed, Int. J. Multiphase Flow, (2024).
Honda, Y., Saito, S., Anzai, T., Harada, S., Tsuji, T., Washino, K., Oshitani, J., Kajiwara, H. and Matsuoka, K., Experimental Verification of the Brinkman Equation around Objects with Various Shapes in Gas-Solid Stationary and Fluidized Beds, Int. J. Multiphase Flow, 160, (2023).

濃度界面における微粒子の流体力学的混合 ~「混合」を流体力学な観点から考える~

従来,「物質が混ざる」といった現象は,熱力学 (混合エントロピーの増大) の観点から説明されてきました.しかしながら,液体中に分散したマイクロメートル程度の大きさを持つ微粒子では,集団運動にともなって生じる大規模な混合 (巨視的混合) と,個々の粒子の大きさ程度の小さなスケールの混合 (微視的混合) が競合する複雑な現象であることがわかってきました.本研究室では,3大学 (関西大学,京都工芸繊維大学) の共同研究によって,このような不思議な混合現象を調べています.実験と理論解析 (北大),数値解析 (関西大),特殊な光学装置を用いた測定 (京都工繊大) と役割分担をして,従来の枠組みとは全く異なる流体力学的なアプローチによる混合現象の理論を作り出そうとしています.このような液体中の微粒子の混合・分離現象が自在にコントロールできるようになれば,幅広い工学分野への応用が期待できます.


(関連論文)
Yamamoto, Y., Otomo, R., Tanaka, Y. and Harada, S., Effects of Collectivities and Terminal Velocities on Macroscopic and Microscopic Hydrodynamic Mixing of Stratified Suspensions, Phys. Rev. E, 106, (2022).
Yamamoto, Y., Yamada, K., Tanaka, Y. and Harada, S., Macroscopic and Microscopic Hydrodynamic Mixing of Stratified Suspensions, Phys. Rev. E, 104, (2021).
Mori, M., Tai, T., Nishimura, K., Harada, S. and Yamamoto, Y., Possibility of Non-Fickian Mixing at Concentration Interface between Stratified Suspensions, J. Colloid Int. Sci., 571, (2020).


微粒子凝集体の分散挙動とレオロジー ~スマートフォンを小さくする~

液体中に微粒子を含む系,特に微粒子が凝集体を形成するような流れは,資源・環境工学はもとよりさまざまな工学分野で重要な現象です.例えば環境工学における水処理プロセスでは,人工的に微粒子を凝集させて固液分離を促進させます.一方,ペーストやスラリーを扱う工学分野では,凝集体の形成を防いで液体中に微粒子を一様に分散させることが重要となります.このような研究の一環として,本研究室では,このような微粒子を含む流れに対して,Stokes流とよばれる粘性流体理論を基礎とした数値解析,理論解析を行っています.下図は一様せん断流中による凝集体の解砕挙動の数値解析結果を表しており,関連論文は多くの引用がなされています.最近では企業と共同で,スマートフォンやEVに用いられる電子デバイスの小型化・高性能化を目指した微粒子ペーストの分散性とレオロジー特性の制御に関する研究を行っています.


Stokesian dynamics法による一様せん断流中の凝集体の解砕挙動
(関連論文)
Tanii, Y., Kamata, N., Saito, H., Harada, S. and Sawada, M., Theoretical Consideration of the Rheological Properties of Particulate Dispersions with Aggregates, Phys. Fluids, 34, (2022).
Horii, K., Yamada, R. and Harada, S., Strength Deterioration of Nonfractal Particle Aggregate in Simple Shear Flow, Langmuir, 31, (2015).
Lieu, U. T. and Harada, S., Stability of Restructured Non-Fractal Aggregates in Simple Shear Flow, Adv. Pow. Tech., 26, (2015).

微粒子分散系の集団的な沈降運動 ~液中微粒子の集団性と個別性を知る~

液体中に分散した微粒子は,集団的なふるまいをする場合があります.下図は,懸濁条件をさまざまに変化させた液中微粒子の重力沈降の様子を表しています.個々の粒子がばらばらに存在している場合 (左図)は,1つ1つが個別に沈降しますが,粒子がある程度密集すると,まるで1つの液体のようにふるまい始めます (左図).このような集団的な沈降では界面不安定によって沈降速度は数百倍にも促進される場合があります.本研究室では,他大学との共同研究によって,粒子が集団的にふるまう条件 (無次元数) を見出しました.この無次元数は現在,学術分野の垣根を越えて,ビールの泡の研究や,マントル対流の挙動を表すのにも応用されています.


微粒子分散系の沈降挙動,集団性が小さい場合は粒子は個別的に沈降し(左図),大きい場合は粒子は連続体のように沈降する (右図).
(関連論文)
Yamamoto, Y., Hisataka, F. and Harada, S., Numerical Simulation of Concentration Interface in Stratified Suspension: Continuum-Particle Transition, Int. J. Multiphase Flow, 73, (2015).
Harada, S., Kondo, M., Watanabe, K., Shiotani, T. and Sato, K., Collective Settling of Fine Particles in a Narrow Channel with Arbitrary Cross-section, Chem. Eng. Sci., 93, (2013).
Harada, S., Mitsui, T. and Sato, K., Particle-like and Fluid-like Settling of a Stratified Suspension, Eur. Phys. J. E, 35-1, (2012).

多孔質体中の透過流動の解析 ~濾過の透過抵抗や捕集性能を調べる~

環境工学における濾過・集塵プロセスでは,内部の流体の透過率や微粒子の運動が重要となります.本研究室では他大学と共同で,このような透過流動の数値解析を行っています.粘性流体の理論を基礎として,部分的に成層したり,内部に粗密構造があるようなさまざまな空隙構造を有する粒子層中の透過流動を調べています.得られた結果から,透過抵抗や内部の微粒子の分散度などをモデル化し,現象の理解を試みています.


(関連論文)
Otomo, R., Nakano, Y. and Harada, S., Hydrodynamic Diffusive Behavior of Fine Particle Assemblage Passing through Nonuniform Granular Porous Media, Particul. Sci Tech., (2023).
Otomo, R. and Harada, S., Fluid Permeability in Stratified Unconsolidated Particulate Bed, Transp. Porous Med., 96-3, (2013).
Harada, S. and Otomo, R., Diffusive Behavior of a Thin Particle Layer in Fluid by Hydrodynamic Interaction, Phys. Rev. E, 80, (2009)
(also selected for Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology, 21, 2010).


電磁波位相差測位システムの開発 ~電波を使って鉱石位置を特定する~

3Dプリンタで作製した鉱石そっくりの形状の外殻 (左図) に発信機を埋め込み,複数の受信機で電磁波を受信することによって位置を特定するシステムを,企業との共同研究により開発しました.発信機と受信機との距離によって生じる信号の位相のずれから発信機の位置を特定するもので,測定原理自体は新しいものではありませんが,本研究室では,この位相差測位システムによって,他の鉱石が介在する媒体中でどの程度正確に位置が特定できるかについて調べました.実験の結果,試作機の段階においてもおおよその測定精度が確認でき,不均質媒体中での電磁波測位技術の可能性が示されました.