研究紹介

河川水(再生水)の生物学的汚染メカニズムの解明

現在,水不足が深刻な問題となっている地域が世界中に存在しています.その対策として再生水が様々な用途に利用されています.再生水は通常の下水処理に加え,高度処理を行った水です.農業用水・家庭用用水としての利用や親水河川に供給されています.しかし,再生水を利用した親水河川において大腸菌数の増加が確認されています.これは,利用者の健康上の不安や生物学的安全性の低下につながるおそれがあり、この再生中での大腸菌数の増加の原因を解明することを目的として実験を行っています.

参考文献

Lin et al. Chemosphere 44, 2165–2174. (2016)
Satoh et al. Science of The Total Environment, 715, 136928. (2020)

固体励起蛍光マトリクス分光法による環境試料の非破壊分析技術の開発

環境中の土壌の分析において有機物の分析が広く行われています。この際、土壌中の腐植物質を分析する際には一般的にアルカリ溶液による抽出が行われています。しかし、これによって得られた腐植物質試料は元の構造を失った人工的な物質である可能性について議論が分かれています。そこで、固体状態のまま蛍光測定をする固体三次元蛍光分光測定による腐植物質の非破壊・非抽出での分析が期待されています。

参考文献

J. Lehmann, M. Kleber, The contentious nature of soil organic matter, Nature 528(2015) 60–68
Y. Nakaya et al. (2020) Spectrochim. Acta Mol. Biomol. Spectrosc. 233, 118188.
Y. Nakaya et al. (2023) Talanta 270, 125566.

老朽化した下水管のひび割れから浸入する土壌有機物の探索と老朽化調査への実用化

分流式下水道の汚水管に浸入する雨水や地下水は不明水と呼ばれ,定常的に浸入する常時浸入水と雨天時に浸入する雨天時浸入水があります.特に雨天時浸入水は,分流式下水道を受け入れる下水処理場において,雨天時に想定していない流入増をもたらします.これらは,下水処理場の処理能力の超過,汚水管の流下阻害や逆流,未処理水の放流など様々な悪影響を及ぼします. 雨天時浸入水調査を行うにあたって,対策箇所や優先順位,コストを検討するために浸入経路や浸入地点,規模を特定することは重要です.また,常時浸入水が確認されれば管の老朽化が疑われ,道路陥没などの対策にも有効となります.

参考文献

国土交通省 雨天時浸入水対策ガイドライン(案).

活性汚泥の物理的・化学的性質の解明

現在もっとも普及している下水処理法は活性汚泥法です。 標準的な活性汚泥法では、流入下水中の自然沈降する固形物を沈砂池や最初沈澱池にて除去したのち、溶解性汚濁成分(主に有機物)を反応タンクにて好気的な微生物が集塊したものである活性汚泥(AS)フロックが酸化分解することで処理し、最後に最終沈澱池にてこのASフロックを沈降させることで流入下水が処理されます。 しかし、反応タンクから最終沈殿池に至るまでの大腸菌付着の定量的なデータはほとんどなく、活性汚泥法での細菌の付着メカニズムについては不明な点が多くあります。そこで本研究では物理化学的性質を解明し、水処理を高度化させることを目指しています。

参考文献

Nielsen et al, “Conceptual model for production and composition of exopolymers in biofilms” Water Science and Technology. 36:11-19, 1997
Hori et al. “Bacterial adhesion : From mechanism to control,” Biochemical Engineering Journal. 48:424–434, 2010.

簡易微生物検出センサーの開発

微生物によって引き起こされる感染症は、公衆衛生や水環境保全に重大な影響をもたらすため、公共用水域や下廃水処理場などで病原性微生物を検出または定量することは重要です。現在の微生物の検出法としては、培養法やqPCR法が挙げられますが、培養法は結果を得るまでに長時間かかるといった欠点を持ち、qPCR法は目的以外のDNAが非特異的に増幅されるといった欠点があります。そこで本研究ではDNAアプタマーという一本鎖DNAを用いた手法に着目し、簡易で迅速、かつ安価な新しい検出法の開発を目指しています。

参考文献

国内の食品微生物試験法とISO法との ハーモナイゼーション
定量PCR(qPCR ; quantitative PCR)、リアルタイムPCR

卒・修・博 論文題目一覧