1.研究目的
可視光応答性の光触媒や白色LED用蛍光体として金属酸窒化物が注目されている。
酸窒化物に関する研究では、窒化物イオンの強い共有結合性によりバンドギャップを
調整する場合が多い。我々は酸窒化物の形成に伴って、他にも様々な新しい現象の生じることを
見出しつつある。特に複数種類の金属イオンからなる複金属酸窒化物を生成する際には、
際立った効果が現れる。ゲル化窒化合成法では、複数種類の金属イオンが溶液中で均一に
混合した状態を保ったままの固体状態から、酸窒化物が得られる。
拡散律速の固相反応に比べて、合成温度が低い。このため両陰イオンの共存することによる
様々な新たな効果が顕著に現れるところから、グリーンケミストリーな合成手法による
新物質創製に関する研究を展開している。
2.研究成果
(1)酸窒化ガリウムの欠陥構造とドーピング効果
硝酸ガリウム水溶液にクエン酸をゲル化剤として添加したゲル化窒化合成では、
約1割のGa3+イオンが欠損し六方晶GaNと同型のウルツ鉱型の結晶構造を
もつ
(Ga0.89□0.11)(N0.66O0.34)が
新規に得られた。窒化物が熱的準安定なMn3+やFe3+は、
酸化物クラスターを形成して5モル%程度をこの酸窒化ガリウム中にドープでき、
ごく弱い反強磁性的な相互作用を示した。6配位指向性のCr3+は、
1モル%程度しかドープできなかった。しかしZn2+はZnOがウルツ鉱型の
結晶構造をもつためか33モル%程度まで固溶範囲が広がり、結晶性が改善した。
またZn2+ドープ量が増すにつれて、図1に示すように3eV付近の吸収端形状が
鋭くなった。結晶構造や形態制御も可能になってきており、光学材料への用途が期待される。
図1  Ga1-yZny(N,O)酸窒化物の反射スペクトル
(2)新規なサイアロン系蛍光体の開発
酸窒化アルミニウムでは、ゲル化窒化生成物を窒素雰囲気中で
ポストアニールすることによって、スピネル型AlONが結晶化した。
Eu2+ドープ量を増やしながら合成すると、次第にマグネト
プラムバイト型の酸窒化アルミニウムが共存した。そのc軸長および
含有窒素量は、Eu2+量とともに可変であった。254nm光で
励起すると、Eu2+量とともに青〜白色に発光し、図2のように
400nm、475nm、520nmの発光強度が相対的に変化した。これらの複数
波長での発光は、発光中心であるEu2+の周りに含有酸素・
窒素量および配位様式の異なる配位多面体中心が生じるためと推定される。
類似した合成法を適用して、サイアロンのポリタイポイド相において
新規な蛍光体の探索を行っている。
図2  Eu2+ドープ酸窒化アルミニウムにおける発光特性
(3)金属酸化物クラスターをドープした窒化ニオブ系新超伝導体の開発
グリーンパワーのひとつとして、超伝導の利用が重要性を増している。
しかし臨界温度や臨界磁場などの超伝導特性に優れる新超伝導体の開発は、
銅酸化物系高温超伝導体からあまり進んでいない。窒化ニオブはBCS系の
超伝導体として古くから知られ、ジョセフソン接合などに実用化されている。
エタノール中に塩化ニオブと塩化アルミニウムなどを溶かし、さらにクエン酸を
ゲル化剤として仮焼したアモルファス酸化物前駆体をアンモニア窒化する
ゲル化窒化法によって酸窒化物を合成し、図3に示すような超伝導転移温度
Tc=17Kの(Nb0.89Al0.11)(O0.16N0.84)
やTc=16Kの(Nb0.82Si0.09)(O0.29N0.71)などの
新超伝導体を続々と発見している。これらの窒化ニオブ系超伝導体では、(AlO)+の
ような酸化物イオンクラスターが岩塩型NbN結晶格子中で2x2x2超格子を形成しながら
ドープされて超伝導転移温度を調整すると考えている。
またKTiNbO5などを出発原料とすることによって、
新たな超伝導体の発見や形態制御に関する研究も進展している。。
図3 窒化ニオブ系新超伝導体の磁化率変化
(4)ペロブスカイト型酸窒化物SrTaO2Nの大きな誘電率と焼結法の開発
携帯電話などの身の回りの電子機器には、PLZTなどの誘電体が数多く使用されている。 しかし鉛を含むため廃棄処理後の環境汚染が懸念され、新たに非鉛誘電体の開発が
求められている。BaTaO2NおよびSrTaO2>Nでは、大きな誘電率が 得られる可能性が指摘されていた。しかし難焼結性であるために、圧粉体での測定データ しか報告されていなかった。また大きな誘電率が観測される理由についても明確でなかった。
ゲル化窒化合成法を用いてSr2+とTa5+の混合状態を均一化する 新しい合成法により高品質なSrTaO2N試料を合成するとともに新たな焼結法を 開発し、16,000を超える大きな誘電率と0.1程度の低損失を、102〜106Hz の広い周波数範囲で実現した。また中性子回折法を用いた結晶構造の精密化によって、 図4に示すようにTa5+の周りの配位がcis-TaO4N2である とともに、c軸方向に連なる頂点アニオンに大きな異方的な変位があり、 これらが大きな誘電率を発生していることが明らかになった。
図4 SrTaO2Nの結晶構造と巨大誘電率
3.今後の展望
ゲル化窒化合成法を用いることによって、新化合物群として多様な金属酸窒化物が得られ始めている。共有結合性の差異によって窒化物および酸化物イオンは、酸窒化物の結晶構造中でそれぞれ固有の役割を演じる。これらの役割を組み合わせることによって、上記のような白色LED用蛍光体、新超伝導体、巨大誘電率をもつ非鉛誘電体のみならず、燃料電池用耐食性電極材料やリチウムイオン電池用高性能電極材料なども生み出せる可能性が高い。さらにこれらの高機能性酸窒化物材料のナノワーヤやナノシートの作成も有望である。
4.論文発表