1.研究目的
鉄は資源的に恵まれ、構造材料としてはもとより磁性を中心とする様々な機能性材料 として広く使われている。窒化鉄Fe16N2はα-Feを上回る大きな飽和磁化を もつところから、次世代の磁心材料や磁気記録材料として重要である。その磁区サイズを制御する ことによって、硬磁性および軟磁性双方の用途に利用できる可能性がある。酸化鉄においても ナノロッド状のε-Fe2O3で20kOeの保磁力が報告されている。我々は非磁性 マトリックス中に強磁性粒子を分散してグラニュラーな微細組織を形成すると、磁気センサーとして 期待されるトンネル型の磁気抵抗効果が表れることを見出した。このようにナノ構造を制御して 窒化鉄や酸化鉄を合成することによって、新しい高機能性の発現を目指している。
2.研究成果
(1)低温窒化法によるFe16N2微粉体の合成と磁気特性
粒径数十nmの酸化鉄微粉体を、水素還元したのちにアンモニア気流中160℃以下の
低温で長時間加熱して、Fe16N2微粉体が再現性よく合成
できるようになった。窒化により保磁力は0.9kOe程度まで増え、磁化は40kOe以上の
強磁場中で飽和して216emu/g程度の値が得られた。この低温窒化法による合成反応は、窒化
反応するときに残留している水分による影響の大きいことも明らかになりつつある。
図5  得られたFe16N2微粉体の磁気ヒステリシス曲線
窒化前α-Fe(実線)、130℃-50時間窒化後(点線)、130℃-100時間窒化後(破線)
(2)高周波スパッタ窒化物薄膜のポストアニールによる鉄系強磁性グラニュラーの生成と磁気抵抗効果
鉄やコバルトなどの3d電子数の多い遷移金属の窒化物では、反結合性軌道の寄与が
大きいために窒素を放出して分解し易い。Fe、CoおよびFe0.7Co0.3と
Alの複合ターゲットを窒素雰囲気中でスパッタして、これらのAlNとの固溶体薄膜の生成する
ことを明らかにした。さらにこれらをポストアニールにより熱分解して、AlNとこれらの
金属の混合した薄膜を得た。まだ1%程度ではあるが室温での磁気抵抗効果を観測しており、
微細組織の影響などを検討している。
図6  Al0.31Fe0.69N グラニュラー膜の磁気抵抗(a)および磁器ヒステリシス曲線(b)
400℃アニール、300K測定
(3)負の屈折率をもつメタマテリアルを目指す遷移金属化合物薄膜における微細構造制御ドープした窒化ニオブ系新超伝導体の開発
通常の光学系を用いたリソグラフィーでは、情報書き込みの密度に限界が来ている。
そこで更に書き込み密度を向上できる可能性がある手法として、負の屈折率を
持つスーパーレンズが求められている。金属製のmmサイズの微細なリングと
直線を組み合わせることによって、負の透磁率と誘電率の組み合わせからなる
負の屈折率が、マイクロ波領域では実現している。さらにこのレンズ系を微細化
することにより、可視光および紫外光でも負の屈折率を実現することが必要である。
我々は、熱的に準安定な遷移金属窒化物の加熱分解による金属析出や、
アモルファス金属酸化物の加熱結晶化を利用して、より微細なレンズ系の作成を目指している。
熱的準安定な遷移金属窒化物薄膜へのレーザー描画による図7のようなごく微細な
金属細線の形成や、熱分解法により非磁性で絶縁体のAlNマトリックス中に析出した
強磁性なFe微粒子による図8のような強磁性共鳴における負の透磁率の観測に成功している。
図7 窒化鉄の熱準安定性を用いてレーザー描画した金属鉄細線
図8 Fe-AlNグラニュラー膜の強磁性共鳴
3.今後の展望
遷移金属窒化物の熱的な準安定性を理解することによって、
積極的に準安定性を利用して高い機能性を生み出す試みを始めている。
例えば上記の(2)のポストアニールは電気炉で試料全体を加熱していたが、
レーザーで局所的に加熱分解するプロセスを検討し始めている。
規則的に配列したドットや細線状に熱分解によって金属を析出した
構造形成が可能であると考えている。また溶液法やスパッタ法を利用した
アモルファスシリカから酸化鉄を析出する手法によるε-Fe2O3の生成なども検討している。
4.論文発表