太陽系外惑星探査のための観測技術開発
Development of Astronomical Instrumentations for Detecting Exoplanets



はじめに 〜「第二の地球」は存在するか?〜

「生命を宿す地球は宇宙で唯一無二の天体か?」

フォトニクス研究室では,その疑問に答えるべく様々な天体観測装置の研究開発を進めています。

1995年の第一発見以来,太陽以外の恒星を公転する惑星(太陽系外惑星)がおよそ5000個も発見されています。 現在発見されている太陽系外惑星のほとんどは,間接的な検出手法によるものです。 間接的検出法とは,中心の恒星を観測することによって,周囲をまわる惑星を検出する方法です。 例えば「ドップラー法」は,恒星のスペクトルを観測することで惑星を検出します(図1左)。 恒星の周りに惑星が公転していると,惑星の引力により恒星がふらつくため,恒星の波長が周期的に 変化します(光のドップラー効果)。 ドップラー法は,恒星スペクトルの周期的なドップラー偏移を検出することによって,惑星の存在を確かめます。 また「トランジット法」は,恒星の前面を惑星が通過する現象(トランジット)を利用します。 惑星が恒星の前面を通過すると,恒星がわずかに暗くなります。 トランジット法は,惑星が通過することによる恒星のわずかな減光を検出します(図1右)。

Indirect Detection Methods
図1:太陽系外惑星の間接的な検出手法の例


しかしながら,太陽系外惑星からの光を直接検出することは,現在の観測技術をもってしても極めて困難です。 例えば,地球型惑星と恒星との明るさの比(コントラスト)は,可視域で10の10乗(100億)倍にも 達すると言われています。 生命を宿す地球に似たを探そうと思っても,そのすぐそばで100億倍も明るい恒星が輝いているため, 惑星の光は恒星に埋もれてしまいます(図2左)。 この問題を解決するためには,恒星からの光のみを強力に除去する観測装置(高コントラスト観測装置) が必要不可欠です(図2右)。

Direct Detection Method
図2:高コントラスト観測による太陽系外惑星の直接的な観測の模式図


太陽系外惑星からの光を直接とらえることができれば,惑星のスペクトルや偏光などの情報を 調べることが可能になります。 これらの情報から,惑星の大気組成や表層環境に関する知見が得られると期待され, さらには生命活動の痕跡(バイオマーカー)が発見される可能性があります。 現在,世界中の多くの研究グループにより,究極目標である「第二の地球」発見を目指し, 独自の高コントラスト観測装置の研究開発が盛んに進められています。

私たちの研究室でも,実験室に「『第二の地球』探査の室内シミュレータ」を構築し,独自技術の開発研究を進めています。 図3のように,光学定盤に観測シミュレータを構築し,実験室での「模擬天体観測」を行うことで,その性能評価を行っています。

Experiment at EXIST
図3:(上) 「第二の地球」探査装置の室内シミュレータ構築の様子と,(下) 実験室での「模擬天体観測」の様子




研究紹介(1):
コロナグラフ技術


高コントラスト観測装置の一つとして,ステラ―コロナグラフ(以後,コロナグラフ)という手法があり, 様々なタイプのものが提案されています。 私たちは,8分割位相マスクコロナグラフ,光渦コロナグラフ, ナル干渉型コロナグラフと呼ばれる手法の開発を進めています。 コロナグラフ技術のカギとなるのは,恒星の光を除去するための特殊な光学デバイスです。 フォトニクス研究室では,強誘電性液晶やフォトニック結晶,複屈折結晶を利用した独自の光学デバイスを 提案し,その開発を進めています。

図4は,レーザー光源を惑星系モデルとして用い,実験室でコロナグラフによる「模擬天体観測」を行った結果です。 コロナグラフを用いない通常の観測では,惑星光は明るい恒星光に埋もれて検出することができません(図4左)。 しかしながらコロナグラフを用いることにより,惑星モデルがはっきりと検出されているのが分かります(図4右)。

今後は,惑星検出性能のさらなる改善に向けた技術開発や,望遠鏡に搭載した実観測を目指していきたいと 考えています。

Coronagraph
図4:コロナグラフの室内試験による惑星系モデルの観測(恒星モデルと惑星モデルは別々に観測し, その後にコンピュータ上で合成)




研究紹介(2):
スペックルナリング技術


上述のコロナグラフ技術は,恒星の光波が理想的な平面波であれば, 理論上は恒星を完全に除去することができます。 恒星や惑星の光は宇宙のはるか遠方からやって来るので,その波面は平面波と見なすことができます。 しかしながら,装置に使用する鏡やレンズにはわずかな凹凸があり,これにより光波面は乱されてしまいます。 コロナグラフに入射する光波面が乱れると,恒星光は完全に除去されず,残留ノイズ光が惑星検出の妨げと なってしまいます。 図4の実験結果でも,除去できない恒星の残留ノイズが観察されています。

私たちは,コロナグラフで除去しきれない恒星残留ノイズをさらに低減するため, スペックルナリング技術の開発を進めています。 スペックルナリングとは,スペックル状に現れる恒星残留ノイズの電場情報(複素振幅)を測定し, その電場を打ち消すように光波面を制御・補正する技術です(図5)。 適切な制御を行うことにより,狙った領域の恒星残留ノイズをさらに強力に除去することができ, より暗い惑星を観測できるようになると期待されます。

フォトニクス研究室では,偏光の性質を利用した独自のスペックルナリング技術を提案し,その開発を進めています。 コロナグラフ技術とスペックルナリング技術の開発を両輪で進めることにより, 究極目標である「第二の地球」探査に向けた,観測システムの実現を目指しています。

Speckle Nulling
図5:スペックルナリング技術の概要




研究紹介(3):
ナル干渉計技術


太陽系外惑星のもう一つの直接検出法として,ナル干渉計が提案されています。 ナル干渉計とは,2個(またはそれ以上)の望遠鏡をコヒーレントに結合し,打ち消し合う光波干渉 (ナル干渉)により恒星を除去する手法です(図6)。 ナル干渉計は,中間赤外(10ミクロン波長帯)での観測が有利であると考えられています。 中間赤外域では,地球型惑星と恒星のコントラストは可視域に比べて大きく緩和され, 10の7乗(1千万)倍ほどになると考えられています。

ナル干渉を生じさせるためには,片方の光波の位相を180度ずらさなければなりません。 広い波長域で恒星光を除去するためには,波長に依存しない位相変調器が必要となります。 私たちは,さまざまな位相変調器を提案し,その技術開発を行っています。 例えば,Pancharatnam-Berry位相を利用した独自のナル干渉計を提案し,室内検証実験を行いました。 その結果,広い波長域で恒星モデル光を強力に除去することに成功しました。

Nulling Interferometer
図6:ナル干渉計の原理




〜「えんじにあRing」に掲載された研究紹介もぜひご覧下さい〜
●「地球外生命は存在するか? -先端光技術が拓く宇宙のミステリー-」
「えんじにあRing」(トップページ)
研究紹介 (html)
●「超高性能な望遠鏡を目指して」
研究紹介 (html)



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