研究紹介

赤外画像の可視化

プラズマ理工学講座
光・波動計測工学研究室

光によるプラズマ密度測定

現在、私達人類が直面している問題として、人口増加にともなうエネルギー消費量の増大があげられます。そのため、次世代のエネルギー供給方法の一つとして、プラズマによる核融合の研究がさかんに行われており、近い将来にも商業的に稼動できるといわれています。核融合プラズマの研究において重要となる部分は、炉内でのプラズマを制御することにあります。そのためには、プラズマ密度等の情報を知る必要があり、私達はその計測手法として光干渉法が有効であると考えています。しかし、プラズマの状態によっては、干渉法に用いる光源が不可視の赤外領域に限られてしまう場合があります。そこで、本研究室ではこの目に見えない赤外線を用いた干渉法に必要となる赤外線検出素子として、ニトロアニソールや液晶などの有機材料を提案しており、実際に赤外レーザーを用いた干渉体系に組み込んで実験を進めています。

赤外画像の可視化

本研究室で提案しているニトロアニソールや液晶などの赤外線検出材料は、どれも赤外線を吸収することで、屈折率などの光学的性質が変化します。したがって、可視光を読み出し光として用い、素子を透過もしくは反射した後の可視光の状態を調べることで、検出素子上での赤外線強度分布を推定することが可能となります。何かしらの光学系を組み合わせることや、画像処理を行うことにより、赤外線強度分布の変化を測定することで、プラズマ密度の変化等を算出することが可能だと考えています。

ニトロアニソールを検出素子として用いる場合、その屈折率が赤外線の強度に応じて変化する性質があるので、ニトロアニソール上に赤外線によって形成される干渉縞は、屈折率分布と考えることができます。そのため、He-Neレーザーなどの可視光レーザーを素子に入射させると、素子が回折格子としてはたらき、赤外線強度分布にしたがった回折パターンを観測することができます(図1)。この回折パターンの変化から赤外線強度分布の変化が推定可能であることがわかりました。また、赤外線によるホログラムとして、ニトロアニソール上に縞を形成し、可視光で再生することにも成功しています(図2:アルファベット"M"の再生像)。これにより、可視光によるホログラフィ干渉法を組み合わせた計測も可能だと考えています(図3)。

検出素子としての液晶については、数種類の候補があります。私達が現在実験を進めている液晶は、ある閾値を超えた温度からの冷却過程を変化させることで、可視光に対する透過率をコントロールすることができます。はんだこてを用いて局所的に閾値以上の温度になるように熱を与え、急冷させることで可視光に対する透過率の差として、はんだこてのトレース部分を可視化できることがわかりました(図4:アルファベット"K"の可視化)。また、この状態は少なくとも数日間維持されていたことから、この液晶はニトロアニソールとは異なり、記録性があることもわかりました。赤外線の干渉縞を、同様に透過率として記録することが可能であると考えられるので、赤外干渉法に用いる検出素子への応用が期待できます。

おわりに

本研究室では、以上に述べたように、赤外干渉法に用いるための検出材料に着目し、ニトロアニソールや液晶等の検出素子への応用を考えて研究を進めています。不可視の赤外線を可視化する技術は、プラズマ測定においてだけでなく、多分野で必要とされていることから、重要な研究課題に位置づけられると考えています。また、実験だけでなく解析による理論的なアプローチや、不可視の画像を可視化するという目的のもと、さまざまな研究を行っています