研究紹介

リポソーム内部を反応場とする化学発光法

分子機能化学講座
生物計測化学研究室

リポソーム内部を反応場とする化学発光法

リポソーム(図1)とは,脂質二分子膜で構成される閉鎖小胞であり,古くから生体膜モデルとして利用されてきました。最近では,その内部の空間(内水相)に薬物を閉じ込め患部に送りこむ薬物送達システムやウィルスベクターに代わる遺伝子導入システムとしての応用が盛んに行われています。より身近な分野で言えば,食品や化粧品などの材料としても利用されています。

リポソームを物質のキャリヤーとして利用する場合には,リポソーム膜の透過性が重要な性質となってきます。膜透過性が高すぎると,保持された物質は容易に外水相に出てしまい,キャリヤーとしての機能を果たすことができません。また,リポソーム内水相や膜表面では,バルクの水相とは性質の異なる化学反応場が形成されている可能性もあります。そのためリポソームを利用するには,その性質を調べることが重要な課題となってきます。


図1 リポソーム

当研究室での大きなテーマの一つとして,リポソームを分析化学反応場として積極的に利用する研究を行っています。その一例がリポソーム内水相での化学発光反応です。我々の研究室では過去に,フルオレセイン(FL)と過酸化水素(H2O2)が,西洋ワサビ由来の酵素ペルオキシダーゼ(HRP)を触媒として発光反応を引き起こすことを見いだしてきました。図2Aにその発光応答曲線を示していますが,これらの試薬を混合すると瞬時に発光が発現し,そして減衰していくことが分かります。一方,HRPをリポソームに封入し,その外部にFLとH2O2を添加すると,図2Bに示すように発光応答は緩やかなものに変化します。


図2 化学発光の応答曲線

HRPは高分子量のタンパク質なので,リポソームに内封するとほとんど外水相に出てくることはありません。一方,フルオレセインや過酸化水素は低分子化合物なのでリポソーム膜を透過し,その内水相に侵入します。その結果,内水相にあるHRPの触媒によって発光反応を起こします(図3)。したがって,これら応答曲線を速度論的に解析すればFLなどの発光試薬の膜透過に関する情報を得ることができます。リポソーム膜はその組成によって性質が変化するため,この方法で膜組成や発光試薬と膜透過性の関係について調べています。 またこの他に,リポソームをホタル生物発光の高感度な反応場として応用することも試みています。


図3 発光試薬の膜透過とリポソーム内での化学発光反応