研究紹介

進化分子工学的手法によるバイオプロダクト生産システムの最適化

生物工学講座
バイオ分子工学研究室

1.環境調和型プラスチックの生合成システムの最適化

私たちの研究室では、バイオポリエステルを再生可能な炭素資源から効率よく微生物生産させるシステムの開発に取り組んでいます。そのために、特に進化分子工学という先端的技術を用いて、バイオポリエステル合成に関わる各種酵素の性能アップを試みています。また、このバイオポリエステルの低分子量分子(オリゴマー)が、われわれヒトを含む全生物に存在することがわかってきました。このことは、エステルオリゴマーの生物学的重要性を示唆しており、いくつかおもしろい機能について明らかになってきております。いまだ同定されていないエステルオリゴマーの生合成酵素を見いだし、エステルオリゴマーの生理的意義を解明していくことが大きな課題です。

微生物を用いたバイオポリエステル生産システムの確立には、まずポリエステル生合成に関わる有用遺伝子群を探索・単離することが不可欠です。次に、部品に相当するモノマーを効率よく供給するための代謝経路を遺伝子工学あるいは代謝工学によって造成します。ポリマー合成の主役、重合酵素はその守備範囲(基質特異性など)に応じて、細胞内に遺伝子導入してポリエステルを量産させます。モノマー合成酵素遺伝子、重合酵素遺伝子、そして生産宿主細胞の組み合わせを考えながら、目的とするポリエステルの生産システムを最適化します。その過程で、担当酵素の性能を強化したり、新しい機能を付与するために進化分子工学的研究を展開しています。「進化分子工学」は、自然の進化プロセスを実験的に取り入れて、天然酵素の機能を上回る“スーパー酵素分子”を創る工学と定義できます。 この人工進化によって分子育種された酵素は、バイオポリエステルの生産性向上あるいは物性改善に貢献します。現在、重合酵素をターゲットに、バイオポリエステルの生産性を向上させたり、共重合ポリエステルのモノマー組成比を変化させる、酵素分子の創成に取り組んでいます。立体構造が解明された酵素に関しては、精密に機能改変することが可能です。

2.酵素・抗菌性ペプチドなどのバイオプロダクトの生産開発

生物が生産するタンパク質やペプチドの中には、様々な生理活性を有するものがあり、 その中で抗菌活性を示す一群を抗菌ペプチドと呼びます。抗菌ペプチドは、その多くが自然界で分解されやすいL型アミノ酸で構成され、生体内に異物が侵入した時にT細胞やB 細胞から産出される獲得免疫とは異なる、「自然免疫」を支える分子群です。生体内に異物(ターゲット)が侵入してきた際、抗菌ペプチドは獲得免疫よりも素早く生産され、機能します。また、生体内で迅速に拡散し、標的への結合速度が速いことが特徴として挙げられる。また、酸やアルカリ、熱にも安定で、現在のところ耐性菌の存在はあまり報告されていない。

ペニシリンを始め、様々な抗生物質が発見され利用されるようになって以来、抗生物質は医療や畜産分野など多方面において、人類に対し大きな恩恵をもたらしてきました。しかしその反面、抗生物質の濫用が、MRSAを始めとする耐性菌の出現や、人体や環境への強い負荷から生じる健康面、環境面での問題を引き起こし、近年深刻な事態となっています。

抗菌ペプチドを医療現場や畜産、食品業界へ適用させていく事は、抗生物質とは異なる作用機構を持ち、人体や環境に対する負荷が少ないという面から、これらの問題に対し有効な手段となる可能性を秘めています。本研究室では、抗生物質との併用、農薬や食品添加剤への抗菌ペプチドの導入を目指し、抗菌ペプチドの実用化に取り組んでいます。