すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 大野 宗一
大学院工学研究院 材料科学部門
マテリアル設計分野 組織制御学研究室
教授 大野 宗一
[プロフィール]
○研究分野/計算材料科学
○研究テーマ/材料組織の数理モデリングと計算機シミュレーション
○E-mail/mohno[a]eng.hokudai.ac.jp
2022.12.27掲載

データ同化で見出した材料科学の新展開
「クロススケール・アプローチ」

凝固する金属材料組織の成長過程をより高精度に予測する

2022年4月、組織制御学研究室の大野宗一教授が文部科学省の令和4年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)を受賞した。受賞した研究テーマは「数値シミュレーションによる金属材料の組織予測に関する研究」。京都工芸繊維大学の高木知弘教授、東京大学の澁田靖教授との共同研究が評価された形になる。

大野教授の専門分野は、計算材料科学。現代社会に求められる革新的な材料開発や開発時間の飛躍的な短縮に大きく資する計算機シミュレーション技術を構築している。

「液体状の金属を型に流し込んで固める鋳造の段階で、金属結晶デンドライトがどのように固まっていくかを高精度に予測するシミュレーション技術を開発しています(図1)。結晶の成長プロセスによって、できあがった材料の物性値――硬さや電気抵抗、耐食性等――が異なります。したがって、その成長過程で現れるデンドライトの形やサイズ、成長の速度をより精確に予測することができれば、学術的な発展のみならず、金属材料メーカーの製造プロセス最適化などにおいても貴重なデータとなりえます」

※図1 雪の結晶の成長と同じメカニズムを持つデンドライト成長のシミュレーション結果。Al合金の液体中で固体結晶が上部に向かって成長していく。

大規模MDシミュレーションによって核生成の解析を可能に

従来の材料組織に関する成長予測技術は、計算規模の制約や数理モデルの欠陥、材料物性の欠如によって発展が遅れてきたという。
これらの課題解決に向けて、大野教授たち「数値シミュレーションによる金属材料の組織予測に関する研究」チームは以下の3つのアプローチで取り組んだ。
1)材料組織に関する大規模シミュレーション技術を開発
2)実用合金の凝固・粒成長組織を世界最高精度で予測するフェーズフィールド(PF)法の開発
3)PF法と分子動力学(MD)法を同一時空スケールで融合し、物性値を算出する新たなデータ科学の確立(図2)

「MD法を使ったミクロな原子レベルの計算では、液体から固体へと相が変化するときに金属の核生成が生じることがわかっていますが、組織レベルの計算を得意とするPF法では、この核生成を定量的に取り扱うことは現段階で困難です。そこで我々の共同研究では、より大規模なMDシミュレーションを実現。それによって均一核生成には予測していなかった不均一性が内在していることを明らかにすることができました」

※図2 分子動力学(MD)法×データ科学×フェーズフィールド(PF)法の融合で、新たな物性値推定方法の開発に成功した。

気象予測の「データ同化」を材料科学の分野に導入

大野教授たちの研究が高く評価された要因の一つに、これまで気象学や海洋学で活用されていた「データ同化」を材料科学の分野に導入した新規性があるという。

「通常は実験と計算シミュレーションを融合させるために用いるデータ同化ですが、我々はMD法とPF法というスケールの違う計算手法を融合させる独自の手法を見出しました。ミクロのMD法を、メゾスコピックのPF法に融合させて、メゾスコピックのパラメータを推定するという方法を開発しました。このようにミクロとメゾの手法を同一スケールで融合する方法をクロススケール・アプローチと我々は呼んでいます。」(図3)

これらの取り組みによってPF法では従来の100倍以上、MD法では100億原子の大規模計算に世界で初めて成功。実用合金における凝固・粒成長の組織予測の精度を飛躍的に高めることとなった。

「計算規模の点で見ると、今回のスパコンを使った計算では、研究室レベルのサーバーを使った場合と比較して、15年先の知見が得られています。この圧倒的な計算技術の進展は日本の材料開発に大きく貢献できるものだと考えています。今後はこの大規模計算によって生まれたミクロとメゾ、マクロがそれぞれ重なる領域、クロススケールで新たな予測技術を確立できないか、さらに深掘りしていく予定です」

※図3

「企業との共同研究の場合は、計算コストと予測精度のバランスを考えながらそのプロジェクトでの最適解を見つけ出そうと心がけています」