すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

准教授 三浦 章
大学院工学研究院 応用化学部門
無機材料化学分野 無機合成化学研究室
准教授 三浦 章
[プロフィール]
○研究分野/無機化学・材料科学
○研究テーマ/合成反応理解・窒化物合成
○E-mail/amiura[a]eng.hokudai.ac.jp
2022.06.15掲載

日米7大学・1企業の国際共同研究で
高温超伝導体YBCO合成の過程を明らかに

その場測定と計算モデルの導入でより確実性の高い研究体制へ

「環境・エネルギー問題の解決に貢献できる高機能なセラミックスの創製」に挑む無機合成化学研究室。2021年3月に北海道大学大学院工学研究院若手教員奨励賞を授賞した三浦章准教授は、それまでブラックボックス化していたセラミックスの合成過程をその場測定と計算モデルの双方により明らかにしようと試みている。

固体酸化物燃料電池や半導体などさまざまな機能性材料やエネルギー材料に用いられているセラミックスは複雑な組成を持つものが多く、その合成過程はいまだ明らかになっていないという。
「セラミックス材料合成は数種類の原料粉末を数百度以上の高温に加熱することで反応を進行させていきますが、電気炉の中で何が起きているかを直接的に見る手段は限られています。そこを補完するのが、計算科学の導入です。現在、世界的な傾向として、従来の “数を撃てば当たる”ような物量で試行錯誤する研究スタイルだけではなく、研究者に過度な負荷をかけないより確実性の高い研究手法が求められています。計算モデルによって無数にある組み合わせをある程度まで絞り込み、電子顕微鏡や放射光を使ったその場測定で反応機構を明らかにすることで、理論的な合成反応設計が可能になります。結果として、新規機能性材料創出のための期間を大幅に短縮できます」


※図1 高温超伝導体であるYBa2Cu3O7-xの結晶構造と磁気浮上の写真

専門知のバトンを渡し合う国際共同研究ネットワーク

2021年5月にプレスリリースが出た三浦准教授の研究成果「セラミックス合成過程の直接観測と計算モデル」は、日米の7大学と1企業が集う国際共同研究である。対象となるセラミックス材料は、酸化イットリウム(Y2O3)、過酸化バリウム(BaO2)、酸化銅(CuO)の粉末混合物を800〜1000度に加熱することで合成される高温超伝導体YBCO(イットリウム系超伝導体)を採用した(※図2)。

「きっかけは、アメリカで開催されたゴードン会議で、研究員であったウェンハオ・スン氏(現ミシガン大学材料科学工学部助教)と合成反応設計に関するディスカッションを行ったことでした。計算モデルは、カリフォルニア大学バークレー校材料科学工学部のガーバード・セダー教授らのグループに担当していただき、山梨大学大学院総合研究部の長尾雅則准教授には実験のプランニングの段階から参加してもらっています。
大型放射光施設SPring-8での実験は、東京都立大学理学部の後藤陽介助教や広島大学大学院先進理工系科学研究科の黒岩芳弘教授とともに。唯一の企業参画である株式会社日立ハイテクの白井学博士には実空間で何が起きているかを知るため、電子顕微鏡での観測にご尽力いただきました」


※図2

この共同研究によりYBCOの反応初期では反応エネルギーが最も大きいBaO2とCuOが反応し中間生成物が形成され、反応後期ではその中間生成物が溶融し、Y2O3と反応することでYBCOが生成されるというメカニズムを明らかにした。

「さきがけ」採択で知られざる新機能創出に挑戦

こうした国際共同研究は「ネットワークの構築が鍵」と三浦准教授は語る。「オープンマインドの姿勢で、否定から入らずに何か面白いことができないかという前向きさも必要です」。
この研究成果をもとに、次のプロジェクトもすでに動き出している。2021年度JST戦略的創造研究推進事業「さきがけ」に新テーマ「物質輸送の差異を生かした新規準安定相の創出」が採択されている(※図3)。
「YBCO合成反応で見えた中間生成物がヒントになり、合成過程の途中でできる新規準安定相に着目しています。そこにはまだ私たちが知らない新たな機能が潜んでいるのかもしれません」。今後も学内外の共同研究者らと新たな課題に取り組んでいく。


※図3

計算科学とその場解析を組み合わせ、超伝導体やイオン伝導体などの機能性材料の合成メカニズムの解明と新規準安定材料の創出を目指す。

「コロナ禍でもオンラインで共同研究は進められますが、ちょっとした情報交換から新たなひらめきを得るにはやはり対面の場が大事だったんだと最近実感しています」