すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

助教 山田 悟史
大学院工学研究院 人間機械システムデザイン部門
バイオ・ロボティクス分野 バイオメカニカルデザイン研究室
助教 山田 悟史
[プロフィール]
○研究分野/バイオメカニクス
○研究テーマ/骨粗しょう症の予防・治療に役立つ技術の研究
○E-mail/syamada[a]eng.hokudai.ac.jp
2016.02.08掲載

骨組織の力学的特性と階層構造特性の関係
骨粗しょう症の予防・治療に寄与する研究

骨密度だけでは予測できない骨強度

運動機能障害のため移動能力が低下し要介護となるロコモティブシンドロームは、今日の高齢化社会では大きな問題となっている。特に骨粗しょう症患者は国内だけでも1300万人と推測されており、骨粗しょう症や骨折の予防・治療は重要な課題である。バイオメカニカルデザイン研究室では、骨の強度と構造の関係の解明や、将来的に整形外科の臨床で役立つような測定・評価技術の開発に取り組んでいる。

「骨粗しょう症の診断では一般的に骨密度が使われてきましたが、骨密度だけでは骨強度が予測できないこともあり、整形外科の臨床現場において課題となっているそうです。私たちは、骨組織の階層構造に着目し、骨の力学的特性と構造の関係について研究しています。基礎研究の段階なのですぐに医療に応用できるわけではありませんが、北大医学部の先生方とも協力しながら研究を進めているところです」

骨は、外側の厚く緻密な皮質骨と内側の海綿骨に大きく分かれる。皮質骨には、細い血管を中心に同心円状に薄い層が積層したオステオンと呼ばれる構造が観察される。また、海綿骨は、骨梁と呼ばれる小さな梁状の骨が網目状につながった構造をしている。骨の主な成分はコラーゲン線維とそれに沈着したハイドロキシアパタイト(HAp)である(図1)。

「実際に骨の強度を直接測ることは難しいため、骨強度の測定・評価には骨の強度と階層構造特性の関係をまず理解する必要があります」

研究によると、HAp結晶の配列と骨強度の関わりが明らかになってきた。HAp結晶の軸は骨の長軸に揃う傾向があり、その度合いが高いほど弾性率や強度が高いという結果が得られている(写真1)。

「私たちは骨に力が作用した時のHAp結晶の変形挙動にも注目しており、X線回折法を使って明らかにしています。これを応用すれば、骨に作用している力をHAp結晶の変形状態から予測できる可能性があります」

海綿骨の強度を決定する構造的因子の解明

骨粗しょう症では、主に海綿骨が多く占める部位での骨折が多い。海綿骨は、骨梁と呼ばれる小さな梁状の骨が3次元編目状に配列した構造をしている。海綿骨全体の強度は皮質骨の十分の一以下で、その力学的特性は骨梁構造に依存することが知られている。しかし、一つひとつの骨梁は長さが1㎜程度と非常に小さいため、骨梁単体の強度を測定することは難しい。山田助教らは、骨梁単体の弾性率を計測するため、小型の試験装置を作製した(写真2)。微小な骨試験片の弾性率測定法を開発している。

「試験片は、一つの骨梁のみが飛び出すように周りにある海綿骨を整形し、エポキシ樹脂でアクリル製の治具に固定しています。小さな曲げ負荷を与え、それによる微小なたわみを顕微鏡を使って計測しています。こうすることで、小さな骨梁の力学的特性を簡単に計測することができるようになりました。骨梁のような小さな骨試験片の力学試験方法としては非常に有効であると考えています」

海綿骨の強度は骨梁の量や向きとも関連性があると考えられており、骨梁単体の測定を重ねると同時に、骨梁の力学的特性に及ぼす微視構造特性や、骨梁の力学的特性と海綿骨全体の強度との関係に関する研究に期待が寄せられている。

骨組織の残留応力の測定

もうひとつの研究テーマが、骨組織の残留応力である。骨は、外部から力が働いていない時でも、内部に力(応力)の分布が生じている。

「例えば成長の過程で、体重が軽い頃に形成された組織と、体重が増えてきてからできた組織では変形の基準が変わり、それによって内部に力のバランスが生じているのではないかと考えています。骨内部に生じているこの応力に着目している研究者はほとんどいないのですが、私はここに関心を持ち、骨組織の残留応力の測定に取り組んでいます。実験結果によると、外部から力が働いていなくても内部に応力分布があることが分かり、成長によってその大きさや分布が変わることもわかってきました。これが生物学的にどういう意味を持つのかはまだ解明されていませんが、今後はそういう点にも取り組みたいと思います」

現在は比較的若いウシの骨を使って実験を行っているが、成長のプロセス、あるいは病気や加齢によって構造と強度がどのように変化するのかといった部分はまだ分かっていない。山田助教は、「今後はこうした部分に取り組みながら、骨粗しょう症の予防や治療に役に立つような知見を得ていきたい」と語っている。


図1

図1. 骨の構造

写真1

写真1. ハイドロキシアパタイト結晶の分子模型

写真2

写真2. 研究室で作製した小型力学試験機