すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 幅崎 浩樹
大学院工学研究院 応用化学部門
機能材料化学分野 界面電子化学研究室
教授 幅崎 浩樹
[プロフィール]
○研究分野/機能材料化学、電気化学、材料表面化学
○研究テーマ/アノード酸化による機能性酸化膜の創製、機能性ナノ材料の鋳型合成
○E-mail/habazaki[a]eng.hokudai.ac.jp
2016.01.28掲載

電気化学で金属表面にナノ構造を創製
身の回りのさまざまな製品に応用が可能

水や油が転がる、跳ねる
超撥水・超撥油表面の開発

液体や固体など二つの相が接する境界部分のことを界面というが、電気分解により金属の表面に酸化反応を起こすと金属と液体の界面にさまざまな物質が創製される。界面電子化学研究室の幅崎浩樹教授は、電気化学および化学的手法を用いて金属表面に機能性酸化物ナノ薄膜・酸化物ナノポーラス膜・ナノ材料などを合成し、環境やエネルギー、資源問題など役立つ機能性素材の研究開発を行っている。

「電気化学のメリットは、電源と溶液と電極さえあれば低コストで簡単に物質を創製することができる点です。特にナノサイズの孔が規則正しく並ぶ薄膜などは、工学的手法よりもずっと簡単につくることができます。材料もアルミニウムやチタンなど豊富に手に入り、電気分解をコントロールすることで形やサイズもデザインしやすい。当研究室ではこうした技術を活用して超撥水性材料や燃料電池など実用化の可能性が高い分野の材料開発に取り組んでいます」

その成果のひとつが水や油に濡れない超撥水・超撥油表面アルミニウムである。幅崎教授は蓮の葉の表面が水をはじくことをヒントに、同じような突起構造を持つマイクロ/ナノポーラス薄膜を開発した(脚注1)。

「これは学生が実験の過程で偶然見つけたものなのですが、ニオブ表面に創製されたナノサイズの突起構造が水滴をバウンドさせるほどの超撥水性を持つことが分かったのです。それをアルミニウムでも創製できるよう改良したところ、同じような機能を持つアルミニウム表面をつくることができました」

この突起構造は水だけでなく油もはじく超撥油性も持つ。しかも水や油をはじくと同時に表面の汚れを液の側に付着させる。つまり防汚性・セルフクリーニング性をも有するのである。アルミニウム箔への適用やプラスチックへの転写も可能なため、身の回りのさまざまな場所や道具・設備などに防汚表面加工を施すことができる。

「製造加工も工業製品への応用も容易なため、多種多様な産業への展開が考えられます。雪の多い地域では雪の付かない構造物も可能になるでしょう。『水・油・汚れを寄せつけない』という点だけでも応用できる分野は数限りなくあると期待しています」

また、超撥水・超撥油とは正反対の水や油に馴染みやすい性質をつくることも可能であり、さまざまな応用が考えられる。研究室では、アルミニウムのみならずチタンなどの軽金属以外に、鉄やステンレス鋼などへの応用にも取り組み、すでに複数企業との共同研究が進められている。

リチウムイオン電池の性能を向上させる
積層構造のカーボンナノファイバ

もうひとつ特筆すべき成果として上げられるのが、リチウムイオン二次電池に使われるカーボン材料の開発である。アルミニウム板を酸性溶液中でアノード酸化すると、自然と10nmから100nmのサイズのシリンダー状の穴が無数に空いた酸化アルミニウムの膜(アノード酸化アルミナ膜)ができる。このアノード酸化アルミナ膜を鋳型にしてカーボンナノファイバを合成すると、特殊な性質を持ったカーボンナノファイバがつくられる。

「カーボンナノチューブとの大きな違いは、カーボンナノチューブが円筒形なのに対し、カーボンナノファイバは六角網面がファイバの軸方向に積層していることです。いわば座布団を重ねるような構造になっているのです。カーボン材はエッジ状態が非常に重要で、エッジ処理によって充放電の効率が変わってくるのですが、今回開発したカーボンナノファイバは従来のものよりエッジ状態がよく高速に充放電できます。リチウムイオン電池の特性を飛躍的に向上させることが可能になるのです」(脚注2)

また、カーボン材料は燃料電池にも使われるのだが、現在の燃料電池は担体であるカーボンに触媒として白金を付着させている。白金は高価な金属であるため、白金の担持効率をいかに高めるかがコスト管理のカギとなっている。

「私たちが開発したカーボンナノファイバは白金を担持しやすい特性を持つだけでなく、非常に耐久性にもすぐれ、燃料電池の電極として非常に有効であることが分かりました」

アノード酸化アルミナ膜を鋳型にした製造方法では少量しか製造できないためこのまま実用化することは難しい。しかし、積層でエッジの多いカーボンナノファイバの持つ優位性を明らかにしたことの功績は大きく、今後はこのようなカーボンナノファイバを大量生産できる製造方法の開発を目指した産学連携の道を探りたいと語る。

「ここまで精密な積層を実現したカーボンを合成するのは決して簡単ではありません。どのような配向のカーボンができるかということもなかなか予想できないのですが、これまでのデータの蓄積をもとにさまざまな工夫や試行錯誤をしています。配向を制御するには界面のインタラクションが非常に重要であることも解明されつつあり、金属や酸化物をいろいろ変えることで多様な機能性が実現できるのではないかと考えています。現在はまだ基礎研究のレベルですが、素晴らしい特性があることが分かってきたので、これをどのように実用化させていくかを追求したいと思います」


脚注1 実用金属材料であるアルミニウムに対して、簡便なウェットプロセスの組み合わせにより、水のみならずオクタンなどの表面張力が20mN m-1と低い液体をもはじく超撥油表面を実現。
脚注2 カーボンナノファイバー

写真1

写真1. 超撥水アルミニウム表面

写真2

写真2. 研究室の様子