北海道大学 大学院工学研究院 環境工学部門 水質変換工学研究室

微生物燃料電池

メンバー
田村 知暁, 池田 澪, 宇貫真布
MFC

微生物燃料電池による下水からのエネルギー回収

本研究の背景と目的

日本では下水処理に年間消費電力の約0.7%が使われ、約700万トンのCO₂が排出されています。これは全体の約0.5%に相当し、エネルギー消費や温室効果ガス削減が課題です。一方で下水には石炭並みのエネルギー密度(2.5 MJ/m³)があり、効率的な回収技術が期待されています。微生物燃料電池(MFC)は、下水中の有機物を微生物が分解し、電気を生成する技術で、曝気装置が不要な省エネ型の処理方法として注目されています。MFCは再生可能エネルギー源として有望ですが、出力電圧が小さいことや処理水質の低さなどが実用化の障壁となっており、これらの課題解決に向けた研究が必要です。

本研究ではMFCを活用して、省エネルギー型の高度下水処理システムの開発や、下水からの高効率なエネルギー回収システムの開発を目指します。さらに、その回収したエネルギーの活用方法を模索し、下水エネルギーの有効利用を実現することを目的としています。この研究を通じて、環境負荷の少ないエネルギー循環型社会の実現に貢献します。

北海道大学大学院工学研究院・工学院広報誌「えんじにあRing」2010年4月号で紹介されています。

論文情報 (詳細は業績をご覧ください)

Effect of poised cathodic potential on anodic ammonium nitrogen removal from domestic wastewater by air–cathode microbial fuel cells

Joel Koffi N, Okabe S.
Bioresource Technology. 2022 348:126807

本研究では、家庭排水からアンモニア窒素(NH4+-N)および全窒素(TN)の除去性能を、空気陰極型微生物燃料電池(MFC)を用いて評価しました。微生物燃料電池(MFC)は、有機物を分解し電気を生成しながら排水処理を行う持続可能な技術として注目されていますが、その性能向上のためには電極条件の最適化が求められています。本研究では、特にカソード電位を+0.7 V vs. SHEに設定し、その効果を検証しました。電位を調整した結果、電流生成が11 ± 1 mAから22.8 ± 5 mAに増加し、酸素の透過率も75.4 ± 1.2 g-O2/m³/日から151 ± 3.7 g-O2/m³/日へと倍増しました。この結果、NH4+-Nの除去率が150 ± 13 g-NH4+-N/m³/日、TNの除去率が63 ± 16 g-TN/m³/日という高い値を達成しました。

これらの高い除去率は、電極によるアシストがアンモニア酸化に寄与し、好気性酸化と組み合わせることで、酸素透過が効率よく窒素除去に活用されたことによるものです。カソードに酸素が浸透することで、アノード側での微生物による酸化反応が促進され、さらに生成された電流によって電気化学的な酸化反応が効率化されました。これにより、従来のシステムでは達成できなかった高効率な窒素除去が可能となりました。実験では、空気陰極の電位を調整することで得られる窒素除去効果を、従来の開回路条件および閉回路条件と比較し、その優位性が確認されました。

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Domestic wastewater treatment and energy harvesting by serpentine up-flow MFCs equipped with PVDF-based activated carbon air-cathodes and a low voltage booster

N'Dah Joel Koffi, Okabe S.
Chemical Engineering Journal. 2020. 380:122443

本研究では、家庭排水を処理しながらエネルギーを回収するために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ベースの活性炭空気カソードを装備した蛇行型上向流微生物燃料電池(MFC)が評価されました。MFC技術はエネルギー効率の良い排水処理手法として期待されていますが、従来の課題である高い初期コストと低いエネルギー出力がありました。本研究では、リアルな家庭排水を6か月以上にわたり連続処理し、PVDFベースの活性炭カソードMFC(MFC-PVDF/AC)がプラチナベースのカソード(MFC-Pt)と比較して優れた化学的酸素要求量(COD)および懸濁物質(SS)の除去効率を示しました。
さらに、MFCの低電圧出力を増強するために、新たに開発された低電圧ブースター(LVB)を接続することで、0.4V未満の出力を4.35~5.2Vに引き上げ、実用的な電力回収が可能となりました。このLVBはLEDライトを12日間以上点灯させるのに十分な電力を供給し、低コストで製造できることから、再生可能エネルギーの利用にも応用が期待されます。

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