現在行われている生物学的廃水処理は微生物の好気的代謝を利用する手法(活性汚泥法)が一般的であるが、この手法は処理槽に酸素を通気する必要があり、その通気に膨大なエネルギーが費やされている。通気によって費やされるエネルギーの総和は国内のエネルギー消費の1%に達するとも言われている。いうなれば現在の水処理は「石油を燃やして」水をきれいにしていることに他ならない。石油資源の枯渇が叫ばれる昨今において、エネルギーを消費することなく、あるいはエネルギーを産出しながら水をきれいにする技術を開発することは極めて重要である。
上で述べたようなエネルギー産出型の廃水処理として近年注目を集めている技術に微生物燃料電池(Microbial Fuel Cells; MFC)がある。MFCは、ある種の微生物が無酸素条件下で有機物を分解する際に、導電性の固体基質(電極)を最終電子受容体として使用するという性質を利用した新しいタイプの燃料電池である。この技術を廃水処理プロセスに適用することで廃水処理と発電を同時に行うことが可能となる。なおかつ嫌気処理であることから酸素の通気を必要とせず余剰汚泥の発生量も少ないというメリットも生ずる。
・負極(Anode)の微生物反応
有機物 (+微生物) → 電子(e-) + プロトン(H+) + 二酸化炭素(CO2)
・プロトン交換膜(Proton Exchange Membrane;PEM)
プロトン(H+)を選択的に透過する高分子膜。この場合、プロトンは負極から正極へと移動する。
・正極(Cathode)の反応
酸素(O2) + プロトン(H+) + 電子(e-) → 水(H2O)
以上の反応から回路が成立し、電気が流れる仕組みとなっている。
研究内容紹介
External CO2 and water supplies for enhancing electrical power generation of air-cathode microbial fuel cells
Ishizaki, S., Fujiki, I., Sano, D. and Okabe, S.
Environmental Science and Technology, 2014, 48(19), 11204-11210.
微生物を触媒として排水中の有機物から電気生産が可能な排水処理技術であるバイオ燃料電池(MFCs: Microbial Fuel Cells)の実用化には、発電量の増大が必要である。特に空気カソード式バイオ燃料電池(以下、Air-cathode MFCs)においては、カソード反応(O2+4H++4e-→2H2O)の促進が必要となる。本研究では、カソード反応の促進のためには、Air-cathode MFCのカソード電極上のプロトン量の不足を解消する必要があることを示し、カソード電極へのCO2及び水の供給による装置外部からのプロトン供給の可能性を検証することを試みた。その結果、CO2と水を供給することで400%の発電量増大を達成し、外部からのプロトン供給は発電量増大に非常に有効であることが示された。また、カソード電極上でのCO2の溶解は、カソード反応で消費される約67%ものプロトンを供給しており、非常に重要なプロトン供給源であることを明らかにした。本研究は、Air-cathode MFCの構造、運転の最適化において、カソード電極周辺のCO2濃度およびカソード電極の含水量が、発電量増大に重要な因子であることを示唆するものである。
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Acetate oxidation by syntrophic association between Geobacter sulfurreducens and a hydrogen-utilizing exoelectrogen
Kimura, Z. and Okabe, S.
ISME Journal, 2013, 7(8), 1472-1482.
酢酸をエネルギー源とする微生物燃料電池(MFC)の陰極バイオフィルムの微生物群集構造を安定同位体標識法(DNA-SIP法)及び変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法により解析した結果、Geobacter属細菌とHydrogenophaga属細菌の優占を確認した。これらのうちGeobacter属細菌については酢酸をエネルギー源とするMFCの主たる電気生産細菌であることが既に報告されていたが、一方でHydrogenophaga属細菌の生態学的役割については未解明であった。我々はMFCの陰極バイオフィルムからHydrogenophaga属細菌を分離することに成功し、その生態学的役割の解明に取り組んだ。分離したHydrogenophaga属細菌(Hydrogenophaga sp. AR20株と命名)は陰電極存在下で水素を酸化することができたが、一方で酢酸の分解能力を持たなかった。このことはAR20株が、水素資化性電気生産細菌であることを意味した。またこの成果は、嫌気的酢酸酸化能力を有するGeobacter属細菌と水素酸化能力を持つHydrogenophaga属細菌との間に異種間水素伝達による共生関係が成立することを示唆した。この仮説を証明するために、我々はG. sulfurreducens PCA株とHydrogenophaga sp. AR20株を酢酸をエネルギー源とするMFCで共培養した。結果、共培養MFCはそれぞれの菌株の純粋培養MFCよりも高い電流値及び酢酸消費量を示した。また、共培養MFCにおいてのみAR20株は増加した。これらの成果はGeobacter属細菌とHydrogenophaga属細菌が共生的電気生産により電極への電子伝達を行うことを示した最初の報告である。
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本研究の遂行に不可欠であったGeobacter sulfurreducens PCA株は、宮崎大学・井上謙吾助教によりご提供頂きました。また本研究は、JST CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」研究領域、JSPS科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究(23246094)、およびJSPS特別研究員奨励費(11J04417)により遂行されました。ここに深甚なる謝意を表します。
Effect of formation of biofilms and chemical scale on the cathode electrode on the performance of a continuous two-chamber microbial fuel cell
Kyungmi Chung, Itto Fujiki and Satoshi Okabe
Bioresource Technology, 2011, 102(1), 355-360.
長時間運転した2槽式微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell: MFC)では、正電極上にバイオフィルム及び化学的スケールが生じる。16S rRNAクローン解析により、バイオフィルム内ではGammaproteobacteria綱に属するXanthomonadaceae科細菌2種が優占種として存在していることが確認された。また、化学的スケールは主にNa+及びCa2+で形成されていることが示された。正電極上のバイオフィルム及び化学的スケールを取り除いた際、初期値の約35%にあたる0.2 W/m3まで電力生産能力が減少したことから、電力密度の上昇にバイオフィルム及び化学的スケールの構成物質が深く関わっていたことが示唆された。しかしながら、正電極上にこれらの物質が過度に集積すると電力生産能力が減少することも同時に確認され、長期的なMFC運転では正電極上のバイオフィルム及び化学的スケールのコントロールが肝要であることが示された。
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論文等(2009-)