実験結果のより良い提示のために

テキストの最初の方にグラフの描き方の手引きが載っています。 実験の結果を読者に提示するには普通はグラフにして示すので、 読み取り易いグラフを描くことはとても重要です。 しかしながら提出されるレポートを見ると、 具合の悪いグラフが多いようです。 こういう風に描けと丁寧に説明してあるのに、 なかなかその通りにはならないものです。 そこで、一つ発想を逆転させて、困ったグラフの例を幾つか示して 皆さんの参考に供するのがここでの目的です。

総論

グラフを描く上での要点は、 実験結果をそこから容易に読み取ることができるかどうかです。 軸の説明がなかったり、単位が明示されていなければ、 グラフから測定の結果を読み取ることはできません。 軸に数字のラベルやティックが適切に配置されていなければ、 変化の様子は大体掴めても、値を読み取ることは困難です。 文章を読み直して推敲するように、 自分で描いたグラフを「読み直し」てみると良いのです。

では以下に良くないグラフの例を短評と共に示します。





1. ラベルや軸の説明が枠の中に入っている

この例では軸の説明は枠の外にありますが、 横軸のラベルが枠の内側に入っています。 こんな位置にラベルを置くと、 大切な実験結果がラベルの数字で隠されてしまうことがあります。 ラベルの0.80の小数第二位の0をデータ見間違えたりしませんか?



2. 「逆側」にティックがない

枠の上辺と右辺にティックがありません。 困ったことにエクセルのデフォルトの設定はこうなのですよね。



3. 単位がない

縦軸の拡散係数に単位が書いてありません。 本文を読めば書いてあるのかも知れませんが、 はっきり言ってこれじゃだめです。 表もしばしば単位が書いていないので注意してください。



4. 軸に説明がない

上の例と逆で、記号と単位はあるのですが、 縦軸、横軸が何を示すのかが書いてありません。 D は拡散係数に決っていると一人よがりになってはいけません。



5. 数字のラベルの切れ目が分りずらい

横軸の数字ラベルがつながってしまっていて、 数値として判読し難いグラフです。 左からプロファイルを辿って急に濃度が下る場所 (4番目のラベル)が幾つなのか読もうとすると イライラっとすると思いますよ。



6. 数値とティックの関係が分りずらい

横軸のラベルは6桁も幅を取っているのに、 補助ティックの間隔が小さくて、 0.00085や0.00090に対応するティックがどれだか分りません。 右から2番目のデータは何度の時の測定値だかすぐに読み取れますか?



7. 数値とティックの関係が分りずらい

横軸はティックとティックの間に数値ラベルが置いてあり、 どこが0.825なのか分りません。 度数分布を示す表(ヒストグラム)でこのようなグラフを用いることもありますが、 この例はNGです。



8. ラベルの桁数が足りない

縦軸の数字ラベルの有効数字が足りなくて、 3×10-11などのラベルが二つずつあります。 (2×10-11に至っては三つあります。Why??) 0から順に数えれば辛うじて理解できるのですが、 親切な図とは言えません。



9. ラベルにE書式の数字

縦軸の位取りを示すのに、 「×10-11」となどと書く代りに 「e-11」と言う表記が使われています。 計算機の世界でしばしば使われる表記法で、 この約束事を知らない人は多くはないと思いますが、 きちんとした論文で見掛けることは(今のところ)ありません。



10. 補助ティックの刻みが不自然

ちょっと見ただけでは気付かないかも知れないのですが、 横軸のラベルは5µmの間隔で、 補助ティックはこれを4つに分けているので 刻み幅は1.25µmになります。 刻み幅は1µmにした方が圧倒的に読み取り易いです。



11. 数値ラベルの値が直感的でない

横軸のラベルの有効数字の桁数が多過ぎて、 それぞれの補助ティックの値がどうなるのか、 電卓でもないことには分りません。



12. 軸のスケールが不適切

横軸のスケールが大き過ぎて、 興味のある55µmから80µmの部分が良く見えません。 ここの部分を大きく示しましょう。



13. 測定値を示すプロットが見えない

小さな点があるのですが、目立ちません。 実験の測定結果はとても重要ですから、 どこにあるのかはっきり分るようにしなければなりません。



14. 測定値を単に折れ線でつなぐ

測定点と測定点の中間では 線形の依存関係があると考えられるなら別ですが、 測定された点同士を直線で結ぶのは考えものです。 50at.%での拡散係数は40at.%と60at.%の 丁度中間の値だと思いますか?



15. スプライン関数で補間したことによる意味のない凸凹

それでは滑かに結べば良いのかと言うと、 このグニャグニャした曲線もイヤです。 Arrheniusプロットは直線になるという理論があるのですから、 最小二乗法などで、最適な直線を探すべきでしょう。



16. 枠の外にデータ

枠の外にデータ点がはみ出していると、値を読み取るのが困難です。 そもそも美しくありません。



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