テキストの最初の方にグラフの描き方の手引きが載っています。 実験の結果を読者に提示するには普通はグラフにして示すので、 読み取り易いグラフを描くことはとても重要です。 しかしながら提出されるレポートを見ると、 具合の悪いグラフが多いようです。 こういう風に描けと丁寧に説明してあるのに、 なかなかその通りにはならないものです。 そこで、一つ発想を逆転させて、困ったグラフの例を幾つか示して 皆さんの参考に供するのがここでの目的です。
グラフを描く上での要点は、 実験結果をそこから容易に読み取ることができるかどうかです。 軸の説明がなかったり、単位が明示されていなければ、 グラフから測定の結果を読み取ることはできません。 軸に数字のラベルやティックが適切に配置されていなければ、 変化の様子は大体掴めても、値を読み取ることは困難です。 文章を読み直して推敲するように、 自分で描いたグラフを「読み直し」てみると良いのです。
では以下に良くないグラフの例を短評と共に示します。
この例では軸の説明は枠の外にありますが、 横軸のラベルが枠の内側に入っています。 こんな位置にラベルを置くと、 大切な実験結果がラベルの数字で隠されてしまうことがあります。 ラベルの0.80の小数第二位の0をデータ見間違えたりしませんか?
枠の上辺と右辺にティックがありません。 困ったことにエクセルのデフォルトの設定はこうなのですよね。
縦軸の拡散係数に単位が書いてありません。 本文を読めば書いてあるのかも知れませんが、 はっきり言ってこれじゃだめです。 表もしばしば単位が書いていないので注意してください。
上の例と逆で、記号と単位はあるのですが、 縦軸、横軸が何を示すのかが書いてありません。 D は拡散係数に決っていると一人よがりになってはいけません。
横軸の数字ラベルがつながってしまっていて、 数値として判読し難いグラフです。 左からプロファイルを辿って急に濃度が下る場所 (4番目のラベル)が幾つなのか読もうとすると イライラっとすると思いますよ。
横軸のラベルは6桁も幅を取っているのに、 補助ティックの間隔が小さくて、 0.00085や0.00090に対応するティックがどれだか分りません。 右から2番目のデータは何度の時の測定値だかすぐに読み取れますか?
横軸はティックとティックの間に数値ラベルが置いてあり、 どこが0.825なのか分りません。 度数分布を示す表(ヒストグラム)でこのようなグラフを用いることもありますが、 この例はNGです。
縦軸の数字ラベルの有効数字が足りなくて、 3×10-11などのラベルが二つずつあります。 (2×10-11に至っては三つあります。Why??) 0から順に数えれば辛うじて理解できるのですが、 親切な図とは言えません。
縦軸の位取りを示すのに、 「×10-11」となどと書く代りに 「e-11」と言う表記が使われています。 計算機の世界でしばしば使われる表記法で、 この約束事を知らない人は多くはないと思いますが、 きちんとした論文で見掛けることは(今のところ)ありません。
ちょっと見ただけでは気付かないかも知れないのですが、 横軸のラベルは5µmの間隔で、 補助ティックはこれを4つに分けているので 刻み幅は1.25µmになります。 刻み幅は1µmにした方が圧倒的に読み取り易いです。
横軸のラベルの有効数字の桁数が多過ぎて、 それぞれの補助ティックの値がどうなるのか、 電卓でもないことには分りません。
横軸のスケールが大き過ぎて、 興味のある55µmから80µmの部分が良く見えません。 ここの部分を大きく示しましょう。
小さな点があるのですが、目立ちません。 実験の測定結果はとても重要ですから、 どこにあるのかはっきり分るようにしなければなりません。
測定点と測定点の中間では 線形の依存関係があると考えられるなら別ですが、 測定された点同士を直線で結ぶのは考えものです。 50at.%での拡散係数は40at.%と60at.%の 丁度中間の値だと思いますか?
それでは滑かに結べば良いのかと言うと、 このグニャグニャした曲線もイヤです。 Arrheniusプロットは直線になるという理論があるのですから、 最小二乗法などで、最適な直線を探すべきでしょう。
枠の外にデータ点がはみ出していると、値を読み取るのが困難です。 そもそも美しくありません。