騒音問題の解決

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騒音とは

私たちは,様々な音に囲まれて生活しています。 音には様々な種類(たとえば音声・音楽・自然音)がありますが,いずれも空気を伝わる小さな振動です。 音のうち,「望ましくない音」のことは「騒音」と呼ばれますが,主観的・感覚的に音を分類したものに過ぎません。

騒音が主観的・感覚的に決められるものであるため,騒音による環境問題も,単なる主観の問題とされることが少なくありません。 「感覚公害」と呼ばれることもあります。 しかし,騒音による影響は感覚的・心理的なものに留まりません。 たとえば,「音で目が覚める」ことは私たちの誰もが知っていますが,騒音による度重なる睡眠妨害は「環境性睡眠障害」という疾患に分類されます。 良い睡眠が健康維持に欠かせないこともまた常識であり,実際に,騒音と高血圧・虚血性心疾患・脳卒中・糖尿病,等の様々な健康影響が関連することが近年の科学的調査・研究で明らかとなっています。

騒音による健康リスクは,きわめて大きいにもかかわらず無視・放置されていることがあります。 また,多くの住民による苦情や裁判といったかたちで問題が顕在化していることもあります。 私たちは,騒音による健康リスクの評価・予測・低減に関する研究を通じて,騒音による潜在的・顕在的な問題の解決を目指しています。

交通騒音によるリスク

自動車・鉄道・航空機等より発せられる音は交通騒音と呼ばれます。 交通騒音と健康影響の関連性について,実験的研究および疫学研究が多数行われ,世界保健機関(WHO)等がその結果をまとめて公表しています。 主なものでは,以下のような文書が発表されています(いずれも英文)。

WHO欧州地域事務局による「欧州環境騒音ガイドライン」によれば,自動車騒音の夜間の平均レベルが45dBのときに約3%の住民が軽度の睡眠障害である,と結論付けています。 また,日中の騒音レベルが53dBを超えると虚血性心疾患(心筋梗塞)のリスクが増大し始め,59dBでリスクの上昇は5%に達すると推定されています。

欧州では,既に,市街地・幹線道路・空港周辺での交通騒音は「騒音マップ」として可視化が義務付けられ( The NOISE Observation & Information Service for Europe ),行政にはこれに基づく騒音低減政策の実施が求められています。 欧州全体(人口約5.3億人)では,騒音によるリスクの増大で説明できる死亡数は年間12000人に達すると推定されています。

道路交通騒音による健康リスクを日本の状況に当てはめると,毎年,約2000人が死亡していると推定されます( 北大プレスリリース:道路騒音による全国の健康リスクを推定 )。 この死亡リスクは,結核やぜん息と同程度であり,無視できる水準ではありません。 また,健康影響は道路沿道の住民に集中しており,これらの住民に限ってみれば,健康リスクは数倍~数十倍となります。 残念ながら,日本では,このリスクは十分に検討されることのないまま無視されてきたのが現状です。

日本全国における,様々な原因による死亡と道路騒音による死亡の比較。

風車騒音によるリスク

「持続可能」な社会のために,私たちはエネルギー源の根本的な見直しを求められています。 そして,太陽光・風力・バイオマス・地熱,等の再生可能なエネルギーの導入が進んでいます。

風力発電は,言うまでもなく,将来的に有望な電源のひとつです。 しかし,発電用風車の運転時に音が発生することは避けられません。 風車の音は交通騒音と比較すると比較的静かですが,近年,世界各地で風車近傍の健康影響が報告されるとともに,風車騒音による健康影響に注目が集まる様になりました。 風車騒音では比較的周波数の低い成分(低周波音:100Hz以下や200Hz以下などの音を指す)が卓越しており,低周波音による健康影響にも注目が集まっています。

残念ながら,風車騒音による健康影響に関しては,科学的知見は現時点で十分に得られておらず,信頼性の高いリスク予測は困難です。 しかし,(国内を含む)世界各地で風車近傍の健康影響が報告されていることは事実です。 全国各地で風力発電導入計画が進む中,科学的不確かさや「予防原則」を踏まえたリスク評価・コミュニケーションが重要です。

研究資料

Noise Research Repositoryに資料を公開していますのでご参照ください。