我々が行う研究とは?
我々, 資源化学研究室は, セメントや石油といった無機材料, 有機材料を対象に, 実験及びモデリングを通してナノレベルから現象を解明することを目的として活動しています.
そのため、日々実験と理論の両方に立ち向かい, 実現象で起こっている様々な問題に対して化学的な視点, 工学的な視点からそれらの問題の解決に取り組んでいます.
我々は複数の班に分かれ, 1班は2~3人のメンバーで1つのメイントピックを中心にそれぞれが自分の研究テーマを持ち日夜研究を行っています.
研究室の活動
全体ゼミ:研究の進捗発表, 週1回
先生ゼミ:研究の進捗報告及びそれに関する議論, 週1回
学生ゼミ:学生のみで実施, 内容は様々, 不定期
トピック
EOR(石油増進回収)
石油の埋蔵量はなかなか減らない. その理由の一つは技術の進歩である.
つまり地中に眠っている儲けにはならない石油を, 技術の進歩により低コストで石油を採ることができる.
その技術こそがEnhanced Oil Recovery(EOR)といい, 日本語では石油増進回収などと呼ぶ.
その中でも導入しやすさ, 低コストなどの理由から近年注目を浴びているLow Salinity WaterFlooding(LSWF)に焦点を当てている.
LSWFとは日本語で低塩分濃度水攻法と言い, 地下の油層に希釈した海水を圧入することで油層中の原油を回収する方法である.
LSWFによる石油回収率の向上は確認されているものの, LSWFのメカニズムはいくつか提唱されている段階にとどまり解明には至っていない.
このメカニズムを理解し実現場における適用を目指すためには, 複数のスケールにおける研究が求められる.
- マクロスケールでは, 油層シミュレーションを構築し, 実際の石油の回収率の評価を行い, LSWFの効果を検討する必要がある.
- ミクロスケールでは, 原油の移流モデルの構築や濡れ性の評価が求められる.
- ナノスケールでは, 原油-海水-岩石界面における表面錯体モデルの構築及び同界面における相互作用の評価が必要である.
キーワード
石油, EOR, LSWF, 静電相互作用
関連文献
C-S-HとC-A-S-H
コンクリ―トはなぜ固まるのか. そもそもコンクリートとは、セメント・水・砂・砂利からできる複合材料である.
このうちセメントと水が化学反応を引き起こし、砂や砂利をくっつける接着剤のような役割を果たしコンクリートは固まる.
ではC-S-H、C-A-S-Hとはなんなのか. その前にセメント業界における略語について説明しましょう.
- C : 酸化カルシウム(CaO) *炭素ではない
- S : 二酸化ケイ素(SiO2) *硫黄ではない
- H : 水(H2O) *水素ではない
- A : 酸化アルミニウム(Al2O3)
ではC-S-Hとはなにか? それはセメントの水和反応により生成する物質を指す.
C-S-Hとは
Calcium Silicate Hydrateの略称であり, 日本語ではケイ酸カルシウム水和物と呼ばれる.
その
C-S-Hはセシウム(Cs)などの有害な放射性イオンの吸着に有効であると言われている.
キーワード
セメント, C-S-H, C-A-S-H, 放射性イオン, 吸着, 表面電荷
関連文献
-
Y.Elakneswaran, T.Nawa, K.Kurumisawa:
Influence of surface electrical properties of C-S-H on chloride binding in slag-blended cementitious materials,
Journal of Materials in Civil Engineering, American Society of Civil Engineers, Vol.30, No.5, pp.1-7(2018)
-
Y.Elakneswaran, T.Nawa, K.Kurumisawa:
Electrokinetic potential of hydrated cement in relation to adsorption of chlorides,
Cement and Concrete Research, Vol.39, pp.340-344(2009)
Geopolymer(ジオポリマー)
セメントを製造するためには、大量の二酸化炭素を排出する.
環境問題が騒がれる昨今, 二酸化炭素の排出量を抑制する動きがあり, 二酸化炭素の排出量を抑制するセメントフリーな材料が注目されている.
その一つがGeopolymer(ジオポリマー)である.
放射性廃棄物はセメント系材料で固化され, 地中に埋設処分されている.
そこでそのセメント系材料に代わり, ジオポリマーの利用が期待されている.
そのためには, ジオポリマーの長期的な安定性や, セシウム(Cs)やストロンチウム(Sr)などに対するジオポリマーの吸着性能について研究する必要がある.
キーワード
二酸化炭素, セメントフリー, Geopolymer, Metakaolin, Ionic incorporation
関連文献
- X.Y.Zhuang, L.Chen, S.Komarneni, C.H.Zhou, D.S.Tong, H.M.Yang, W.H.Yu, H.Wang:
Fly ash-based geopolymer: clean production, properties and applications,
Journal of Cleaner Production, Vol.125, pp.253-267(2016)
セメントの水和
水和とは? それはセメントと水による反応を指す.
水和ポルトランドセメントおよびブレンドセメントの固相集合および細孔溶液組成は、出発物質、混合比および結合剤組成の投入のための熱力学的モデルによって予測されている.
予測された結果を検証するために様々な実験技術が採用されている.
キーワード
セメント, 水和反応, 水酸化カルシウム(ポルトランダイト), 誘導期
関連文献
セメントコンクリートの耐久性
北海道のような寒冷地で融雪剤として利用されている塩化カルシウム, また海水中の塩分, これらに共通するモノとは何か.
それは塩化物イオン(Cl-)である.
この塩化物イオンがコンクリートの早期劣化の一因となる塩害を引き起こす.
塩害とは, 鉄筋コンクリート内部に塩化物イオンが侵入し, 拡散し, 鉄筋表面の酸化不動態被膜を破壊し, 鉄筋が腐食される劣化現象を指す.
そのためセメント構造物は長期の安定性が重要となるため, セメントコンクリート構造物の劣化機構の解明及び耐久性の評価を行っている.
キーワード
セメント, 塩害, 乾燥収縮, 凍害劣化, 硫酸塩劣化, ASR(アルカリシリカ反応),
関連文献
-
Natsumi Noguchi, Yuka Morinaga, Tomohiro Kajio, Elakneswaran Yogarajah, Toyoharu Nawa:
Influence of portlandite on Pyrex glass dissolution and the formation of alkali‐silica chemical reaction products,
Journal of the American Ceramic Society, Vol.101, No.10, pp.4549-4559(2018)
-
Akira Hatanaka, Yogarajah Elakneswaran, Kiyofumi Kurumisawa, Toyoharu Nawa:
The impact of Tortuosity on Chloride ion Diffusion in Slag-Blended Cementitious Materials,
Advanced Concrete Technology, Vol.15, pp.426-439(2017)
-
O. P Kari, Y.Elakneswaran, T.Nawa, J.Puttonen:
A model for a long-term diffusion of multispecies in concrete based on ion-cement-hydrate interaction,
Journal of Materials Science, Vol.12, pp.4243-4259(2013)
-
Y.Elakneswaran, A.Iwasa, T.Nawa, T.Sato, K.Kurumisawa:
Ion-cement hydrates interactions govern multi-ionic transport model for cementitious materials,
Cement and Concrete Research, Vol.40, pp.1756-1765(2010)