ソフトコンピューティング手法を用いた交通振動応答による
橋梁健全度評価手法の開発

研究の背景と目的
  
近年,橋梁を含む重要な社会基盤施設に対する維持管理への関心は高まっている。2007年米国ミネソタ州の高速道路で供用中の橋が崩落し,多数の死傷者が出た衝撃的な事故が発生し,橋梁構造物の維持管理に警鐘を鳴らしている。日本においても,同じ頃に木曽川大橋や本荘大橋の鋼材・柱の破断や腐食事例が次々と発見され,高度経済成長期に建設された多くの道路・鉄道橋梁構造物の劣化・老朽化への対応が急務となっている。
  橋梁構造物の検査は,従来目視を主体とした全般検査,場合によって衝撃振動試験や非破壊検査による健全度評価が実施されており,多くの技術者と多大なコストを要している。今後の少子高齢化問題や経済情勢を踏まえると,膨大な構造物を少ない技術者で効率的にメンテナンスしていく必要があり,新たな視点からの実用的な健全度評価の一次抽出手法が求められている。
  橋梁が損傷した場合,部材の剛性や減衰性能,場合によって質量が変化し,健全な状態と異なる振動特性が現れ,ヘルスモニタリングに活用できる。しかし,振動モニタリングの問題点の一つは,構造物に動的外力を如何に簡単に与えるかである。常時微動の利用は,長大橋の場合比較的に容易であるが,中小スパン橋梁において計測されにくく実用性が低い。そのため,常時走行荷重による交通振動応答を簡単に利用することが考えられるが,走行荷重と橋梁の振動が複雑に連成し非定常性が強いため,国内外おける研究はまだ初期段階にある。車両走行による橋梁振動の測定は比較的に容易で,多数かつ継続的に実施されている状況にある。これらの交通振動データを適切に利用し橋梁の状態を把握できれば,効率的なヘルスモニタリングおよび健全度評価手法になると考えられる。


研究内容 <関連論文: Paper
  本研究では,実測応答から逆解析により構造の損傷を同定する方法と異なり,想定し得る損傷パターンを入力して順解析により構造応答を計算し,これを実測値と比較することにより損傷パターンを特定する。この手法を実用かつ効率的なものをするために,次のように橋梁-走行列車連成振動解析手法と,近年構造同定を含む工学的問題への応用が目覚しいソフトコンピューティング理論(NN and GA)を応用する。
  1)一回の連成振動解析自体が膨大な計算コストを要するため,実用において簡単に実施できない。そのために,本研究では,まず入出力を対応づける学習によって構造応答を再現できるニューラルネットワーク(Neural Network,以下NN)を構築する。構築に際し,模型実験や実測の代わりに,本研究で開発した橋梁-走行車両連成解析手法による高架橋振動応答のシミュレーション結果を用いる。すなわち,解析による構造の応答値をネットワークの学習における教師データとして用いる。橋梁振動解析結果は実測値との整合性が確認できれば,構築した学習システムは実橋梁構造物にそのまま応用できる。
  2)構築したNNをツールとして使用し,想定した各損傷パターンに対応する橋梁の交通振動応答をシミュレーションした後,離散化問題最適化手法手法の一つである遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm,以下GA)を用いて構造部材の損傷パターンを特定する。具体的には構造物の部材損傷パターンをGAにおける個体群(人口)とし,構築したNNから出力した構造物の応答と実測値との差を目的関数に設定する。目的関数が最小つまり推定した応答と実測値が最も近い場合の損傷パターンが,求めている解である。


本研究に関する更なる詳細情報は,関連学術論文(Paper)を参照して下さい。


  
本研究の全体的なイメージを下図に示す。