嫌気性微生物の生態学的構造の解析
UASBグラニュール汚泥の微生物群集構造解析および微生物活性の解析
UASBグラニュール汚泥の16S rRNA遺伝子に基づく微生物群集構造、およびFISH法と微小電極による主要微生物の菌体密度と活性の空間分布を解析した。解析した105個のBacteriaのクローン中においてAlphaproteobacteria (51%)、Firmicutes (20%)、Chloroflexi (9%)、Betaproteobacteria (8%)が優占的に検出された。同様にArchaeaについても48個のクローンを解析したところ、クローンは4つのOUTに分類され、OTU1 (69%)とOTU4 (4%)は99.6%の相同性でMethanosaeta harundinaceaと、OTU2 (19%)とOUT3 (8%)はそれぞれ96.2%、97.8%の相同性でMethanomicrobialesと近縁であることが明らかとなった。微生物群集構造解析で優占的に検出された微生物を特異的に検出するオリゴヌクレオチドプローブを作成し、FISH法によりグラニュール内における微生物の菌体密度分布を解析した。FISH法に先立ち行なったDAPI染色の結果から、微生物はグラニュール表面から深さ約400μmの領域において高密度に存在し、これ以深では微生物密度が低いことが明らかとなった。グラニュール中心部(深さ約400μm以深の領域)は、無機固形物や死滅した、もしくは休眠状態の微生物が存在すると考えられた。Bacteriaは主に表面から深さ約250μmの領域に、Archaeaは主に深さ約250μm〜400μmの領域に存在していた。さらに、グラニュール表面にはChloroflexiおよびBetaproteobacteriaが高密度に存在し、グラニュール中層(深さ約50μm〜250μmの領域)にはFirmicutesやActinobacteriaが優占的に存在した。深さ約250μm以深に検出されたArchaeaは酢酸資化性メタン生成菌であるMethanosaetaに属しており、水素資化性メタン生成菌はFISH法では検出されなかった。さらに、H+(すなわちpH)、H2、CH4測定用微小電極を用いてグラニュール内の各物質の濃度プロファイルを測定した。pHはグラニュール表層で低下した。H2濃度は深さ約100μmの地点で最大となり、グラニュール深部に向かうに従い低下した。CH4はグラニュール中心に向かい濃度が増大した。CH4の濃度勾配はグラニュール表層でより急であった。測定した物質濃度プロファイルから数学的モデルに基づきグラニュール深さ方向の活性分布を算出した。H+は深さ約100μmの地点で生成された。正味のH+生成速度は0.1μmol/cm3/hであった。H2は深さ約100μmの地点で生成され(生成速度は23μmol/cm3/h)、深さ約400μmの地点で消費された(消費速度は7μmol/cm3/h)。CH4はグラニュール全体で生成され、深さ約300μmの地点で生成速度は最大(12μmol/cm3/h)であった。グラニュールをエネルギー源として酢酸のみを含む培地にて培養したところ、CH4生成速度は深さ約600μmの地点で最大となった。このことから、深さ約300μmの地点にはH2からのCH4生成活性が、深さ約600μmの地点には酢酸からのCH4生成活性が主に生じていることが示唆された。本研究で得られたUASBグラニュール汚泥の16S rRNA遺伝子に基づく微生物群集構造の解析結果、FISH法による主要微生物の菌体密度分布の解析結果、微小電極による活性の空間分布の解析結果を統合すると、グラニュール表面では主にChloroflexiが高分子有機物を分解し酸を生成していること、グラニュール表面から深さ約100μmの地点では主にFirmicutesやActinobacteriaが有機酸を酸化しH2を生成していること、生成したH2が濃度差によりグラニュール深部に輸送され、グラニュール表面から深さ約300μmの地点では主に水素資化性メタン生成菌がCH4を生成していること、最後にグラニュール表面から深さ約600μmの地点では主に酢酸資化性メタン生成菌であるMethanosaetaがCH4を生成していること、が示唆された。
この研究はApplied and Environmental Microbiology誌に掲載された。pdfファイル
佐藤久