Soft Matter Group in Division of Applied Physics, Hokkaido University
ソフトマターの持つ複雑な構造,多彩な性質および機能の物理的解明とその応用を目指します。

液晶系ソフトマターの構造レオロジー

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  •  刺激に対する応答を調べる学問の一つに「レオロジー」という分野があります。レオロジーでは主に力学的な刺激に対する応答を扱いますが、ソフトマターの文字通り、その柔軟さがレオロジーを理解するための重要なポイントになります。ソフトマターの大きな特徴の一つは様々なメソスケールの構造を自発的に形成することにありますが、それらのメソ構造体は柔らかさゆえに刺激が与えられると新しい構造へと容易に変化します。この時、構造変化とともに力学特性も変化するため、非常に複雑な振る舞いを見せるのです。応用面以外にも、このような非平衡・非線形特性もまた、ソフトマターを研究する魅力の一つです。
  •  複雑なレオロジー挙動のなかに物理の原理を見つけることができれば、応用研究も格段に進歩するはずです。我々は、メソスケールの内部構造が関与するレオロジーを「構造レオロジー(Structural Rheology)」と呼んでいます。これは我々が提唱しているソフトマター物理の中でも新しい研究領域です。これまでに、ソフトマターが形成する様々な構造の中で、最も単純なメソ構造である界面活性剤やサーモトロピック液晶のスメクチック相を中心に二分子膜系ソフトマターの構造レオロジーの研究を進めてきました。
  •  サーモトロピック・スメクチック液晶は溶媒を含まないため、最も単純な層状構造と言えます。構造は単純に見えますが、実はそのレオロジー挙動は構造秩序の欠陥(ナノメートルスケールのらせん転位や刃状転位から、マイクロメートルスケールのフォーカルコニックドメイン等)により強く影響されるためにとても複雑で、これまでスメクチック相のレオロジーを統一する解釈は得られていません。
  •  「構造レオロジー」の代表例として、我々はサーモトロピック・スメクチック液晶相の線形・非線形レオロジー挙動を調べています[1,2]。その成果の一つとして、スメクチック相の弾性率が、構造欠陥であるフォーカルコニックドメインのサイズと、スメクチックの実効的な表面張力によって決まっていることを明らかにしました[2,3]。この発見と同じ関係式が、リオトロピック・ラメラのオニオン相についても成立することから、我々が見出した関係は、欠陥を持つ層状構造のレオロジーについて普遍的なものであると言えます。また、フォーカルコニックドメインのサイズが、スメクチック/ネマチック転移の臨界ゆらぎとともに成長することから、ゆらぎと欠陥形成の起源には密接な関係があると考え、欠陥形成ダイナミクスについても調べています[4]。
  •  興味のある方は、この解説が参考になるかもしれません。

  • [1] Smectic rheology close to the smectic-nematic transition
  • S. Fujii, Y. Ishii, S. Komura, C.-Y. D. Lu, Europhys. Lett., 90, 64001(6pp), (2010)
  • [2] Elasticity of smectic liquid crystals with focal conic domains
  • S. Fujii, S. Komura, Y. Ishii, C.-Y. D. Lu, J. Phys. Condens. Matter, 23, 235105 (7pp), (2011)
  • [3] スメクチック液晶相の構造レオロジー
  • 藤井 修治、好村滋行、石井陽子、液晶15(4), 298-307, (2011) 
  • [4] Structural rheology of focal conic domains: a stress-quench experiment,
  • S. Fujii, S. Komura, C.-Y. D. Lu, Soft Matter, 10, 5289, (2014)

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  •  コレステリック・ブルー相は、欠陥である転傾が三次元ネットワークを組んだキュービック相と言い換えることができます。ブルー相には、三種類の欠陥構造(周期的欠陥ネットワーク構造を持つ、IとII、ランダム欠陥ネットワーク構造を持つIII)が存在し、欠陥の種類毎にレオロジーが大きく変化すると予想されています。
  •  流動による欠陥の再配置とレオロジーの関係を明らかにすることは、液晶科学だけではなく、ソフトマターにおけるレオロジーの普遍的性質、さらに産業界への応用面においても重要な課題です。
  •  従来のブルー相の出現温度域はとても狭く、レオロジー測定を行うことは困難とされていましたが、近年、ブルー相発生の温度域を広げることができ、様々な実験を行うことが可能になってきました。その成果として、ブルー相Iにずり流動を加えると複素弾性率が大きく変化すること、その弾性率変化がブルー相の欠陥である転傾の再配置に起因することなどがわかりつつあります[5]。ブルー相の実験的研究例は少なく、欠陥とレオロジーの関係について、様々な知見が得られると期待しています。最近、ブルー相Iのレオロジーに加え、長距離秩序を持たないブルー相IIIの実験も開始しました。ブルー相IIIは降伏応力をもつことを初めて実験により確認しています[6,7]。
  •  これらの研究は、他大学・海外機関との共同研究で進めています。

  • [5] Shear-enhanced elasticity of the cubic blue phase I,
  • S. Fujii, O. Henrich, submitted, (2019)
  • [6] Nonlinear Rheology and Fracture of Disclination Network in Cholesteric Blue Phase III,
  • S. Fujii, Y. Sasaki, H. Orihara, Fluids, 3, 34, (2018)
  • [7] Rheology of the polystyrene stabilized blue phase III,
  • S. Fujii, S. Nomoto, Y. Sasaki, H. Orihara, to be submitted, (2019)


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  •  画像相関分光法により、ブルー相IとIIIのダイナミクスを調べています。画像相関分光法により、液晶中に分散させた微粒子の平均自乗変位を求め、マイクロレオロジー計測を行うことも可能です。まだ静止場での実験が主ですが、流動印加後も測定できるように、レオメーターに顕微鏡を組み込み、システムを改良中です。それまでは、小角動的光散乱と併用し、ブルー相の格子状欠陥が関与するダイナミクスを調べていきます。
  •  小角動的光散乱装置では、リオトロピック・ラメラ相が持つ線状欠陥のダイナミクスを調べました。流動セルが組み込まれているので、試料の初期条件を、せん断流により予め揃えてから実験を行なうことが可能になりました。
  • [8] Notes on the slow dynamics in dilute lyotropic lamellar phase,
  • S. Fujii, Y. Sasaki, H. Orihara, accepted in J. Biorheol., (2019)


  • 折り紙実験も構造レオロジーの一つとして捉えています。