研究紹介

建築構造物の耐震補強への新材料の応用

空間システム講座
空間構造性能学研究室

耐震補強の必要性

日本は世界有数の地震国であることから、わが国に建設される構造物の設計においては地震荷重が支配的となる場合が多くなります。これまでの巨大地震による被害を教訓として、わが国の構造設計基準は改定されてきました。しかし、現実には基準の改定の度に構造物がすべて建替えられる訳ではなく、旧い基準によって設計された構造物が新基準を満たさない状態で存在します。これらの構造物は将来起こりうる巨大地震に対してその構造性能を診断し、不足の場合には適切な補強が必要となります。

新素材を用いた補強材料

近年の技術によって炭素繊維やアラミド繊維などを鉄筋コンクリート(RC)構造物の補強に用いることが可能となりました。これまでは、鋼材をRC構造物に組み入れたり、鋼板を貼り付けたりして強度や変形性能の増大を計っていましたが、鋼材の重量によって地震荷重が増すので基礎構造に被害が移行することが懸念されていました。その点、開発された材料は軽量で有り、鋼材よりも大きな強度を有しさらに施工性も良いことで、構造物の補強に多用されています。

建築構造物への施工

RC構造物の場合、部材のせん断破壊を避けることを目的として、新素材を部材のせん断補強筋として用いられています。柱や梁では部材軸に直交方向に新素材シートを貼り付ける方法が一般的です。その他に、炭素繊維を樹脂で固めて棒材にして、グリッドに形成したものを壁やスラブの補強筋として追加する方法も行われています。工法としては、まず既存壁に炭素繊維グリッドを金具で留めて、ポリマーモルタルを吹き付ける方法が一般的です。

炭素繊維グリッドを用いたRC耐震壁の補強実験

本研究は、既存建物の耐震壁の耐震性能を向上させるために、炭素繊維グリッドを壁に追加して耐力と変形性能を増大させる補強方法を開発するものです。縮小模型試験体を製作し、これに地震力を想定した繰返し水平力を加力して、その破壊性状を観察します。補強方法としては、炭素繊維グリッドだけのもの(WA-G)やさらにコーナー部に鋼板を留めたもの(WA-Gp)、増し打ちモルタルと既存はりを繋ぐ炭素繊維ロッドを追加したもの(WA-Ga)など、計6体の試験体を加力しました。得られた結果から、補強効果を考察します。  試験体は実大の約1/3で図-2に示す通り、3層建物の1階部分の耐震壁を想定しています。加力装置は図-3の通りです。鉛直荷重を導入した後、漸増の繰返し水平加力を行います。  実験結果の水平力と壁上部の水平変位関係を図-4に示します。補強しない場合(WA-00)に比べて、補強したものは最大耐力の増大は若干ですが、耐力以降の低下が緩やかになりました。特に、炭素繊維グリッドに鋼板補強を加えたものが良い性能を示しました。