研究紹介

マルチエージェントシステムによる津波からの避難シミュレーション

空間防災講座
都市防災学研究室

地震に伴う津波は2004年インドネシア・スマトラ島沖地震の例を見ても分かるように大きな人的被害をもたらします。地震の発生から津波の到達までには一般に時間差があります。これは地震波の伝わる速さと津波の伝わる速さの差から生じます。この間に、津波警報を出して迅速な避難を行うことが被害を軽減する重要なポイントとなります。避難は限られた時間の内により標高の高い地点に到達する必要があります。避難開始までの時間、避難路の選択の良否、避難路での混雑などにより避難がうまく行われない可能性があります。避難行動は、多数の避難者の個々の主体的な行動が複雑に積み重なって構成されます。このような問題を再現するには、個々の要素の振る舞いに着目したシミュレーション方法が有効です。そこで本研究では、マルチエージェントシステムを用いて津波からの避難シミュレーションモデルの構築を行い、避難時の問題点を探っています。

このシミュレーションは津波からの避難ということで、住民の基本行動を「高い所に避難する」といった単純なモデルで表現し、住民をエージェントとして定義し、初期位置や避難開始時刻、移動速度などの情報を与え、より高所へ移動するための経路選択のルールを設定しています。住民エージェントが移動する道路網はネットワーク型、つまり交差点をノード、道路をリンクとして表現しています。地震発生後、様々な時間差をもって避難を開始した住民エージェントは、このリンク上を移動し、渋滞にあい、経路選択を繰り返しながらより標高の高い安全なノードを目指していくシミュレーションです。

この方法を奥尻島青苗地区における1993年北海道南西沖地震の場合に適用しています。1993年7月12日午後10時17分、北海道南西沖を震源とするマグニチュード7.8の地震が発生、それに伴って発生した津波により、北海道奥尻島において、死者172名、行方不明者27名、負傷者143名にも及ぶ甚大な被害が生じました。中でも特に、島の南端に位置する青苗地区においては、死者・行方不明者あわせて105名という大きな人的被害が生じ、死者の大半は津波によるものでした。奥尻島は1983年の日本海中部地震でも津波の被害を被った経験があり、住民の多くは地震発生直後(5分以内)に自主避難を行っており、被害規模に対して犠牲者が少なかったことが指摘されています。

シミュレーションの実行画面を図1(3分後)、図2(5分後)に示します。赤は避難をまだ開始しない人、青は避難中の人、緑は高台に避難した人を表しています。これらの結果は地震後の災害調査によって得られた実際の避難データを良く再現するものとなっていいます。現地では10年が経過し、岬の先端地区が公園化され住民が高台に移転したり避難階段、避難路の整備がすすめられたりしています。これらの変化を取り入れたしミュレーションを行い、改善点、問題点を探っています。

図1 シミュレーション結果画面(3分後)
図1 シミュレーション結果画面(3分後)

図2 シミュレーション結果画面(5分後)
図2 シミュレーション結果画面(5分後)