研究紹介

宇宙環境における高分子材料の損傷挙動とその予測/抑制技術の開発

宇宙フロンティア工学講座
材料機能工学研究室

現在,高分子材料は人工衛星など宇宙機の熱制御材や太陽電池パネルなどに使用されており,次世代の宇宙技術であるインフレタブル構造の候補材としても注目されています.しかし,宇宙環境には原子状酸素(AO)や様々な放射線など,宇宙機用材料に影響を及ぼす多くの因子があります.特に高度200~700kmの低地球軌道(LEO)では,さまざまな高分子材料がAOによって損傷を受けることが知られています.

高分子材料をインフレタブル構造や強度部材に使用する場合,これらは荷重が加わった状態で宇宙環境に曝されることになります.したがって,宇宙構造物を設計するためには,荷重が負荷された状態での材料損傷挙動を明らかにする必要があります.また,LEOに建設される宇宙構造物は,宇宙ステーションのように従来よりも長期間にわたり運用されることから,宇宙用材料には,これに耐えるだけの高い耐久性が求められています.

そこで本研究では,高分子材料を宇宙で長期間安全に使用するために,次の3つを目的とした検討を行なっています.

(1) AOや各種放射線による損傷挙動を荷重が加えられた状態で明らかにすること
(2) 宇宙環境での損傷を地上試験によって予測する方法を構築すること
(3) 宇宙環境での損傷から材料を保護する技術を開発すること

これらを達成するために,本研究室では,宇宙航空研究開発機構(JAXA)が統括する,"国際宇宙ステーションロシアサービスモジュールを利用した材料曝露実験(SM/MPAC&SEED)"へ参画しています.このプロジェクトでは,引張荷重を加えた耐熱高分子ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の膜材を,実際にLEO環境に1~3年間曝露し,材料がどの程度損傷を受けるのかを調査しています.また,宇宙ステーションでの実験と並行して,JAXAの地上施設を利用した対照試験も行っています.この地上試験では,宇宙曝露試験と同じ張力を加えたPEEK膜材に,LEOにおける主な環境因子であるAO,電子線,紫外線を照射し,これらがどのように材料を損傷させるのかについて明らかにしています.さらにAOや放射線に対する耐性を向上させる表面改質法の開発にも取り組んでいます.


宇宙空間で高分子材料を劣化させる要因


国際宇宙ステーション ロシアサービスモジュールでの曝露実験
(左下に実験装置が見える)


原子状酸素(AO)照射による材料表面の変化(地上試験から)