研究紹介
非ニュートン流体の熱・輸送物性に関する研究
マイクロサーマルマネージメント
非ニュートン粘性流体の一つである揺変性(チクソトロピー)流体は,流体内のせん断速度の増加にともない粘度が減少する性質を示すもの(図1)ですが,この性質は,例えばボールペンのインクや塗料,土木工事における土壌の一時的固定など多方面に利用されています.チクソトロピーは流体内の粒子の静電気結合および絡み合いによる構造粘性が一時的に破壊されるために粘性が低下するものですが,このような物質内の構造変化は,その熱物性にも影響を及ぼすものと考えられます.
図1 せん断速度に対する粘度
本研究では,チクソトロピーを示す代表的物質として,ベントナイト懸濁液(図2 ベントナイト懸濁液)に揺動を加え,その温度伝導率の測定を濃度および測定温度をパラメーターとして行ない,加振による粘性の変化がベントナイト溶液の熱物性に及ぼす影響について検討を行なっています.
図2 ベントナイト懸濁液
電解質を加えると粒子が凝集体(floc)と呼ばれる連続的な網目構造を作りゲル化する
ベントナイト懸濁液の濃度,および溶媒物質(水,硫酸銅水溶液)を変えて温度伝導率および粘度の測定を行った結果,図3に見られるように,粘度は19%まではほぼ濃度に比例して増加しますが,それ以上の濃度では急激に粘度が増加する傾向を示しました.19%以上の濃度の懸濁液は,懸濁液がゲル化しているためであることが確認されました. 一方,揺動による温度伝導率の低下は低濃度の懸濁液においてより顕著に表れていることがわかりました.また,揺動の有無にかかわらず,懸濁液の濃度が高くなるに従い,温度伝導率が低下する傾向が認められました(図4).このことは,高濃度の懸濁液中のベントナイト粒子が水分を吸収して膨潤する傾向があり,ベントナイト粒子の質量割合の増加による影響を打ち消しているためと考えられます.
図3 ベントナイト懸濁液の粘度
図4 ベントナイト懸濁液の温度伝導率