バイオフィルムとは微生物自身が生成する細胞外代謝産物により、界面や生体等の固体表面に付着して存在している微生物の集合体のことで、至る所に存在し, 様々な問題を引き起こしている。下水管の腐食や膜による水処理において問題となっているバイオファウリングは、このバイオフィルムによるものだと考えられている。これらのバイオフィルムは物質表面に強固に付着しており、化学物質に対して耐性を持つため、完全な除去が困難である。バイオフィルムの完全な除去を実現するためには、微生物がバイオフィルムを形成するプロセスを理解する必要があるが、今のところそのメカニズムはほとんど解っていない。そこで本研究室では、このバイオフィルムの形成機構を遺伝子レベルで解析し、その解明を試みている。
研究内容紹介
RelE-mediated dormacy is enhanced at high cell density in Escherichia coli
Tashiro, Y., Kawata, K., Taniuchi, A., Kakinuma, K., May, T., and Okabe, S.
Journal of Bacteriology, 2012, 194(5), 1169-1176.
幾つかの細菌は、バイオフィルム状態などの高菌体密度時に休眠化することで薬剤耐性能を獲得する。大腸菌においては、数組のトキシン-アンチトキシンシステムがこの休眠化に関与しているが、休眠化移行の詳細なメカニズムについては未解明な部分が多い。本論文では、トキシンRelE を介した細菌の休眠化が高菌体密度時に顕著に引き起こされることを明らかにした。ラムノース添加の有無によりRelE 発現を調節できる菌株を作製し、菌体密度と細菌の休眠化との関係を調べたところ、高菌体密度時に休眠細胞の割合は高くなり、殺菌性抗生物質への耐性を有する細胞の数も増加していた。さらに、高菌体密度時におけるRelE を介した休眠化は、アミノ酸欠乏と未知の熱可塑性細胞外物質が影響していることが示唆された。このように、細菌は集団となる事で低菌体密度時には発揮できなかった薬剤耐性能を獲得するシステムを備えている。本研究の結果は細菌の休眠化移行における一つのメカニズムを提唱しており、薬剤耐性細菌の制御に重要な知見であろう。
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>>Abstract
Enterobactin is required for biofilm development in reduced-genome Escherichia coli
May, T., and Okabe, S.
Environmental Microbiology, 2011, 13(12), 3149-3162.
大腸菌のバイオフィルム発達には様々な細胞表層構造やクォラムセンシングが関与している。しかし、大腸菌ゲノムの17.6%を欠く「最少ゲノム大腸菌」は、I 型繊毛、アミロイド状タンパク質、及び多糖などの細胞表層構造やオートインデューサー2 情報伝達機構を欠くものの、成熟したバイオフィルムを形成する。このメカニズムを解明する目的で網羅的な転写解析を行ったところ、この菌株はバイオフィルム形成の各増殖段階で異なるアミノ酸合成を行っている事が示唆された。また、最少ゲノム大腸菌のバイオフィルム形成にはentB, marR, dosC, mcbR, yahKといった遺伝子が関与する事が示された。その中で、エンテロバクチンをコードするentB、推定酸素還元型酵素をコードするyahK がバイオフィルムの成熟に関与する因子である事が初めて明らかとなった。このように最少ゲノム大腸菌は個々の遺伝子の表現型を特定するツールとして有用であり、本研究では新たなバイオフィルム関連因子の発見を可能にした。
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Exposure of conjugative plasmid carrying Escherichia coli biofilms to male-specific bacteriophages
May, T., Tsuruta, K., and Okabe, S.
The ISME Journal, 2011, 5(4), 771-775.
Fプラスミドを有する大腸菌はF-piliを介した交配対を形成するが、この現象はバイオフィルム形成初期に関わる因子の一つである。本研究では、F特異バクテリオファージである繊維状ファージ(f1)および20面体ファージ(MS2)がバイオフィルム形成に対して及ぼす影響について解析した。形成初期段階にあるバイオフィルムにf1ファージを添加すると、その発達は完全に抑制されたが、MS2ファージの添加ではそのような影響は見られなかった。この結果から、交配対はF-piliの先端の吸着により形成されるものであり、F-piliの側表面は強く関与しないものと言える。一方、成熟したバイオフィルムに対してf1ファージを添加した場合、抑制現象は見られなかった。このことから、f1による影響は対象のバイオフィルムの成熟度依存的であると言えるが,これは成熟したバイオフィルム内部では交配対は既に形成されており、さらにcurli繊維等のEPS発現が進行していたことが影響したものと考えられた。F-pili接合を完了した交配対は、f1の感染を免れるようである。今回得られた結果は、バイオフィルム内部におけるF因子の存在とF特異ファージとの密接な関係を示したと同時に、バイオフィルム制御に向けた応用の可能性を示唆するものであると言える。
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Characterization and global gene expression of F- phenocopies during Escherichia coli biofilm formation
Thithiwat May, Akinobu Ito, and Satoshi Okabe
Molecular Genetics and Genomics, 2010, 284, 333-342.
バイオフィルム中における遺伝子水平伝播の生態学的役割についての研究が近年行われており、接合伝達自体がF線毛を介してバイオフィルム形成を促進することが報告されている。本研究では、接合性Fプラスミドを保持するE. coli(F+)が形成するバイオフィルムにおいて、接合がバイオフィルム形成に与える影響を評価した。その結果、バイオフィルム形成の初期段階において、F+細胞間における線毛を介した相互作用が重要な役割を果たしていることが示された。異なる増殖段階のE. coliが同時に存在しているバイオフィルム中では、主に定常期後期のF+細胞がF-の表現型を模写した状態をとることによりF+細胞間の相互作用が生じていた。網羅的な転写解析の結果、バイオフィルム状態の細菌とF-表現型模写状態の細菌で共通の特異的遺伝子発現パターンが見られた。F-表現型模写状態の細菌では、表面排除タンパク質とDNA転移機構を抑制してF因子伝播オペロンを制御するゲノム遺伝子領域(ストレス応答・二成分制御系)が特異的に発現されていた。しかしながら交配に必要なタンパク質は安定であり、結果的にF+細胞間の線毛構築が促進されていた。これらのことから、F-表現型模写現象はバイオフィルム形成における細菌の有効な適応行動であると考えられる。
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論文等(2008-)