1999年日本チタン協会 技術賞 受賞講演


日本チタン協会講演 1999.12.
日本チタン協会発行「チタン」Vol.48, No.1, (2000), pp.13-15.

チタン精錬反応の物理化学的評価

京大・エネルギー科学研究科 小野勝敏

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In competition with aluminum and stainless steel for construction materials, titanium smelting process has to be looked at again for the better improve in productivity. Oxide reduction may be one of potential processes only if less expensive titanium oxide with somewhat lower purity is available. In this paper, oxide reduction process has been considered according to the following items; (1)oxygen level to be attainable by the calcium reducing agent and (2)fused salt electrolysis to recycle calcium from calcium oxide.

1. はじめに

将来のチタン産業に対する見方として次の二つがある。一つはチタンの生産量はそれほど伸びなくてもよく、その代わり従来通り純度のよいチタンを高価格で維持し高級金属材料としての地位に定着させるとするもの、二つ目はチタンを同様に軽いアルミニウムや耐食性に優れているステンレス鋼など量産型構造用材料の仲間入りをさせようとするものである。後者の場合は純度を落としてその分大幅に精錬コストを下げなければならない。いずれの立場に対しても精錬プロセスがその鍵を握っており、前者の立場においては現在Kroll法が揺るぎ無い実績を誇っている。一方、世の中に溢れるほどのチタンを安く提供するためには、新たに精錬法の見直しが必要である。これは一体どこまで可能であろうか。

本稿では酸化物を還元の原料としているアルミニウム及びステンレス鋼の精錬と対比しつつ、酸化チタンを還元の原料とするチタン精錬プロセスについて考察する。

2. アルミニウム精錬とステンレス鋼精錬

アルミニウム資源のボ−キサイトから酸化アルミニウムの製造は水酸化ナトリウム溶液中への水酸化アルミニウム溶解度の温度による差を利用する抽出・析出・焼成の工程、通称バイヤ−法に基づいている。酸化チタンは塗料用等に大量に生産されており、ルチル鉱、チタンスラグ及びイルメナイト鉱の湿式硫酸法と塩素化・酸化法があって、高純度でかつ粒子物理的性状の厳しい条件が課せられている。しかし金属チタンの原料として見る場合、このような制約は大幅に緩和されるので工程の簡略化が期待される。ステンレス鋼の資源であるガ−ニエライト鉱はニッケル分が2%前後の低品位酸化鉱であるが、選鉱等によるグレ−ドアップが困難であるため超高出力電気炉に直投され溶融炭素還元がなされている。

アルミニウムは酸化アルミニウムを氷晶石溶融電解質に溶解させ、グラファイト陽極を用いる大気開放型の溶融塩電解炉で炉底に溶融アルミニウムとして析出させる単一工程で製造される。アルミニウムは本来酸素及び炭素との化学的親和力は強いのであるが、1233Kの操業温度でアルミニウム中への酸素及び炭素の溶解度が無視できるほど僅かであるため、電解析出したアルミニウムはそのまま鋳造・加工に供することができる有利な性質がある。

  チタンの物理化学的性質の中で最も不利な要因は、酸素及び炭素の溶解度が金属の中で飛び抜けて大きいことである。従って精錬過程で徹底した酸素・炭素源の排除が求められことが工程の特殊性に繋がっていると言える。 ステンレス鋼精錬は鉄鋼精錬技術の延長線上にある。とりわけ減圧酸素吹き脱炭(VOD)が開発されて高純度化と量産性が飛躍的に向上した。

チタンは融点が1943Kの高融点金属である上に、水冷銅以外に融体保持材料が見あたらないほか、真空あるいは不活性ガス溶解を必要とするので精錬から鋳造に直結できるアルミニウムやステンレス鋼と比較して経済的な不利は免れない。

 さて、2000年代においてアルミニウムは世界の電力事情の良い地域において引き続きホ−ル・エル−電解法で生産されていくと予想される。他方、ステンレス鋼はニッケル資源に問題があり、ニッケル品位がさらに低下するとフェロニッケル中のNi/Fe比がステンレス鋼中のNi/Fe比を下回るため製錬法の見直しが必要となろう。

3. 酸化チタンのカルシウム還元精錬プロセス

酸化チタンのカルシウム還元の基本反応は還元温度を1273K以下として、

        TiO2 + 2Ca = Ti + 2CaO : (H900oC= - 343 kJ)

で表され発熱反応である。これが実際の精錬反応として成り立つための要件は、(1)生成Ti中の酸素レベル、(2)副生成物CaOから還元材Caのリサイクルの2点で、これらが満足されない限りプロセスとして即失格となる。

酸化チタンのカルシウム還元は1923-1940年の間にLuxemburgでW.J.Krollが一連の実験を行っているが、その詳細は不明である。カルシウムによるチタン中の酸素除去限界が平衡論的に明らかにされたのは最近であり、図1に示すようにCaとCaOの共存下で平衡するTi中の酸素濃度が測定されており、原理的に500ppm以下まで到達しうる1)

Fig1

反応容器は鉄系材料が使用でき、内部は不活性ガス雰囲気にする必要があるが、容器の容量は原則として制限はない。反応容器内で酸化チタンは液体カルシウムとカルシウム蒸気により還元され、副生成物の酸化カルシウムが生成チタン粒子を取り囲む形態をとる。

還元工程は装置の工夫で連続化が可能であると考えられる。冷却された還元生成物は水中に投入、攪拌により金属チタン粒子を沈降させる。回収したチタン粉末はさらに十分洗浄してカルシウム分を除去し、加圧成形して溶解する。一方、酸化カルシウムは水中で水酸化カルシウムに変化しているので、濾過・脱水・焼成の工程を経て酸化カルシウムとして再生し、溶融電解により金属カルシウムに転換する。

4. 酸化カルシウムの溶融塩電解

酸化物の溶融塩電解法はアルミニウム製造に酸化アルミニウムを原料とするホ−ル・エル−法としてすでに100年の歴史をもって操業されている。溶融弗化物浴に酸化アルミニウムが約10mass%溶解しうることでこの方法が可能となった。酸化カルシウムの場合も溶解度の大きな溶融塩が必要となる。その候補としてCaCl2-CaF2系は図2に示すように約10mass%のCaO飽和溶解度が期待できる2)

Fig2

ホ−ル・エル−法では消耗型グラファイト電極を使用しており、理論分解電圧は約1.2Vである。酸化カルシウムに対しても消耗型グラファイト電極を使用するとすれば、電解の総括反応は

            CaO + C = Ca + CO

            2CaO + C = 2Ca + CO2

であり、その理論分解電圧は図3から明らかなように約1.0 - 1.3Vとアルミニウムの場合とほぼ等しい。

Fig3

ホ−ル・エル−法の操業温度は1233Kである。カルシウムの電解温度は使用する溶融塩中のCaF2の濃度によるが、100K低い1133K程度と予想される。酸化カルシウム電解の概念を図4に示している。

Fig4

カルシウムの析出は比重を考慮すると電解質より軽く浮上すると見なされ、酸化防止に不活性ガスシ−ルが必要になろう。アルミニウムの電力原単位は約13000KWH/t.Al、カルシウムに対しては操業温度が100K低いとすればこれを上回らないであろう。

5. おわりに

 チタンの還元はチタンの熱力学的性質上、還元に供するチタン化合物(四塩化チタンや酸化チタン)の不純物はそのまま生成チタン中へ取り込まれる。四塩化チタンの還元では塩素はチタンに溶解しないので純度の良いチタンが得られる。一方、酸化チタンの還元では酸素が除去しきれないでチタン中に残る。しかしカルシウムを還元材に用いると構造用材料に使用できる酸素濃度まで除去することが可能である。酸化物を還元の原料とするチタン精錬反応は、アルミニウムやステンレス鋼に対抗しうるチタンの量産という観点から十分検討に値すると考え本稿を著した。

参考文献

1) R.O.Suzuki, M.Ogawa, T.Oishi and K.Ono, Proceedings of Sixth World Conference on Titanium, France 1988, P.701.

2) D.A.Wenz, I.Johnson and R.D.Wolson, J. Chem.Eng. Data., Vol.14, No.2(1969),P.250.