8大学工学部を中心とした 工学における教育プログラムに関する検討



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本資料は8大学を中心として進められてきた,わが国の工学教育のプログラムを検討する委員会の内容と,これまでに行った検討の経過の概要を,出来るだけ多くの方たちに広く知っていただくために作ったものです.より詳しい資料が必要な方は最後の頁に記載の連絡先までお申し出下さい.

工学における教育プログラムに関する検討委員会
平成10年5月8日
検討の経過


 平成8年9月の8大学工学部長懇談会で日本における工学教育の力リキュラムを広い視野から見直すために,懇談会のもとに実務と原案を作成するために「工学教育におけるコア・力リキュラムに関する検討委員会」が設置され,3年間にわたる検討の作業を開始した.

 平成8年度には,工学教育におけるコア・力リキュラムに関する基本理念の検討を進めるための準備として,欧米における工学教育に関する文献の収集とその翻訳,さらには8大学工学部における力リキュラムの現状の調査を行った.

 平成9年度に入ってから日本における工学教育に関するより幅の広い議論を進めるために,委員会の構成員の枠を8大学の外に広げ,他の国立大学,公立大学,および私立大学に参加を呼びかけると共に,委員会の名称を「工学における教育プログラムに関する検討委員会」と改めた.さらに,委員会内に,「工学教育プログラム分科会」,「工学教育システム分科会」,「工学教育プログラム評価分科会」の3分科会を設置し,それぞれの具体的な内容に関する検討を始めた.

 こうして,検討委員会の使命は,広くわが国の工学教育プログラム全般にわたって議論を進めて行くことになった.


組織図



検討に至った社会的背景


 平成8年度から始まった本委員会での検討は,当初わが国の工学教育におけるコア・力リキュラムの作成を主目標としたものであった.この検討が開始された背景には工ンジニア教育プログラムの評価認定(アクレディテーション)の問題が深く関わっている.すなわち,早急に国際基準に沿ったわが国独自の資格認定の作成に繋がる基盤の整備が,検討委員会のひとつの重要な課題であった.このような資格問題が,にわかにクローズアップされてきた国際的な政治的・社会的背景はもっと根が深く,冷戦後の国際情勢の急変に対応して,1990年代から始まった米国における工学教育の抜本的改革に遠因をもつと言ってよいだろう.そして,これはわが国の工学系大学にとっても影響するところが大きく,極めて重要な問題である.すなわち,工学教育の手法と評価において米国では抜本的且つ革命的変化が進行しており,好むと好まざるに関わらず,これを無視しては今後のわが国の工学教育の問題を語ることが出来ない.

 80年代の冷戦の終結に伴って,米国の工学教育は第2次世界大戦後に作られたものと置き換わる新しい指導理念が必要とされている.超大国の競争と国家保障に基礎を置く80年代よりも,むしろ現在の技術者はさらに激しい国際競争と,テクノロジーの利用に対する広範な社会不安に直面している.こうした問題に積極的に対応して行くには,工学教育に一種の抜本的変革が必要と考えられる.新しい工学教育はそれぞれの国家の安全に強く焦点を当て,国際的経済競争力,コミュニケーションと人類の継続的発展に目標を置くと同時に,より多様な学生を引きつけることの必要性が強調されるべきであろう.また,今後は公共政策の決定においても工学が大きな役割を果すことが予想されるので,技術者が意思決定過程に積極的に参加することが適切であるとし,これらの条件を満足させるため,真に魅力ある,且つ幅広い全人教育を目指した工学教育プログラムの作成が求められたのである.

 変革の成功の鍵となるものは工学部を中心として高等学校,専門学校,近隣大学,関連産業,地域の公共団体,政府等との人的交流も含めた幅広いパートナーシップであるだろう.従来よりもさらに社会に密着した工学部を模索する必要がある.


90年代より本格化した米国での新しい変革の波


 こうした背景のもとに米国では工学教育の手法の抜本的且つ詳細な検討がなされた.

 まず第一は評価の問題である.歴史的には米国における1993年のパーフォーマンス・アンド・リザルツ法の制定から始まっており,一言で言えば,掲げた目標に沿ったアウト力ムズoutcomesで査定を進めて行くという一般方針を打ち出している.これは従来の教育には全くなかった新しい斬新な評価の視点である.これはこれまでの評価がインプットや,プロセス,アウトプットで行われていたことに対する批判からきている.インプットとは教育課程に入ってくる全てのものであり,アウトプットとは教育課程からでてくるものを指す.アウト力ムとは本来の目標にどれほど近づいたかであり,もっと質的で元来は定量化することが出来にくいものである.例えば,学生にとってのアウト力ムは在学中の学習成果であり,本人の個人的成長であるといえるだろう.ともすれば,従来の評価が「教育活動そのもの」を目的としてすり替えて考えがちであったのに対して,教育活動はあくまで本来の目的を達成するための手段であると捉えている.すなわち,今何をしているかが重要なのではなく,今していることが期待しているアウト力ムにどう結びつくかが大切であるという視点である.また,アウト力ムで実践を修正しフィードバックしてより改良して行くことになる.すなわち,これまで評価が難しかった教育の内容にまで踏み込んで評価を進め,得られたアウト力ムズ・アセスメントを基礎にさらに教育内容を改善させて行くという継続した改善が期待されている.

 つづいて,デザインを主体とする工学教育の改革である.これは従来の講義は教官が黒板に向かって独り言を呟くものではないかという世間からの強い批判に対して,大学側が率直に応えていったものであり,学部教育の最初から学生に目標とする工学の全体像を与え,また,具体的な工学テーマを与えることによって生き生きした感性と勉学への強い欲求を終始保たせようというものである.言い換えれば,必要なときに必要な教育を与えるという just in time で力リキュラムを進めて行くことであり,これまでの基礎科目からの積み上げ方式による教育手法を抜本的に変えて行くものである.また,複数の工学科目を融合して,一つの科目にしたり,また,工学科目に非工学科目を融合させる試みも積極的に進められている.

 これらの手法は教育方法に情報メディアを積極的に活用することと相まって,現在多くの成果を上げつつある.しかし,これまでの講義は教官が一人で作業してきたのに対して,多くの教官が協力してひとつの講義を進めて行くことになるわけであり,それに対する抵抗も多い.

 われわれは必ずしも米国のこうした改革の流れに迎合する必要はない.しかし,それにも関わらず,良いものは良いことを率直に認め,日本的な工学教育の良さは充分に残しながらも,米国での新しい工学教育の長所は積極的に取り入れて行く柔軟さは必要であると思われる.


工学に関する用語の定義は


 従来からわが国での「工学」や「工学教育」に関する用語は明確な定義がなくいくつか提案されてきたものの,広く受け入れられてきたものではなかった.しかし,それにも関わらず,今後工学教育の議論を進めるにあたって,用語の定義は明確にしておくべきであろう.以下に掲げたものは検討委員会で提案され,検討されたものであるが,必ずしも最終的なものでなく,その内容については本委員会が存続する限り,絶えず変更改善ずるべきものであろう.

工学:
 工学とは数学と自然科学を基礎とし,ときには人文社会科学の知見を用いて,公共の安全,健康,福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問である.工学は,その目的を達成するために,新知識を求め,統合し,応用するばかりでなく,対象の広がりに応じてその領域を拡大し,周辺分野の学問と連携を保ちながら発展する.また,工学は地球規模での人間の福祉に対する寄与によってその価値が判断さる.

工学教育:
 工学教育とは技術者・研究者に必要な工学におけるスキルと知識を与えることである.スキルとは「物事を正しく行うことの出来る能力」であり,また「問題と解答との間のスぺースを埋めることのできるプロセスを構成する能力」である.工学に関するスキルによって技術者・研究者は専門分野の知識を駆使し,関連分野の知識を関連付け,統合し,また,その後の学習の習慣を身に付ける.

技術:
 技術とは自然や人工の事物・システムを改変・保全・操作して公共の安全,健康,および福祉に有用な事 物や快適な環境を作り出す手段である.それらの人間の行為に知識体系を与える学問が工学である.

技術者:
 技術者とは工学を駆使し,技術にかかわる仕事をする職業人である.


分科会の設置へ


 今後の工学教育プログラムの検討をより効果的に進めて行くために以下の分科会が設置された.
  1. 工学教育プログラム分科会
     これからの工学士には専攻分野の専門的な知識のみならず,多くの分野を総合した創造的な研究,技術開発の能力が望まれ,しかも開発された技術に対しての社会への影響を的確に判断する能力が必要とされる.このような人材を育成するため,専門分野に関係なく共通に必要な工学教育のプログラムを提案することを目的とする.
  2. 工学教育システム分科会
     工学に関する最も効果的で,柔軟で,しかもコストパーフォーマンスの高い教育方法を見い出す.欧米における新手法と同時に日本独自の教育システムを探し,今後の大学教育にこれらの新手法を積極的に取り入れるための工夫とその情報の公開を行う.
  3. 工学教育プログラム評価分科会
     評価分科会の役割を当面以下の通りとして活動する. 工学技術者の養成にしぼる.工学研究者の養成や技術者資格には必要になるまで踏み込まない.対象は全般的評価で各専門学科には立ち入らない.評価システムと評価法の開発,及びこれらを継続的に見直し,改善するシステムの開発を行う.

 この際の評価には,従来の自己評価が数字や表で表現してきたのに対して,むしろ当初に掲げた目標に対 する達成度を測ることで評価することを目指す.


今後の議論の展開に向けて


 平成10年度は以上の検討を進めるほか,この委員会の検討の結果の概要を広く大学や企業の方々に知っていただくために,全国各地でシンポジウムをいくつか企画している.多数のご出席を期待している.
 時期 平成10年10月上旬
 場所 福岡,大阪,仙台,(札幌)において数日毎に連続的に開催予定
さらに,本委員会の最終的なシンポジウムを平成11年3月に東京で開催を予定している.
本委員会の検討の経過の概要は以下の報告書に纏められている.


平成8年度 「工学教育におけるコア・力リキュラムに関する検討委員会」報告
−8大学工学部長懇談会への報告−,平成9年5月発行
平成9年度 「工学における教育プログラムに関する検討委員会」報告 第一分冊
−8大学I学部長懇談会への報告−,平成10年7月発行予定
(平成9年度の検討の概要と工学教育に関してのシンポジウムの概要)
平成9年度 「工学における教育プログラムに関する検討委員会」報告 第二分冊
−8大学工学部長懇談会への報告−,平成10年7月発行予定
(工学教育に関して検討委員会の行った海外視察報告)
平成9年度 「工学における教育プログラムに関する検討委員会」報告 第三分冊
−8大学工学部長懇談会への報告−,平成10年7月発行予定
(工学教育に関して全国の工学系大学に行ったアンケート調査)

以上の資料について閲覧をご希望の方は以下の検討委員会委員に直接ご連絡いただくか,下記の名古屋大学事務連絡先までお申し出下さい.一部の資料については入手可能です.


北海道大学大学院工学研究科  教授 岸 浪 建 史
東北大学大学院工学研究科   教授 柳 澤 栄 司
東京大学大学院工学系研究科  教授 中 島 尚 正
東京工業大学工学部      教授 水 谷 惟 恭(プログラム評価分科会委員長)
京都大学大学院工学研究科   教授 吉 田 郷 弘(プログラム分科会委員長)
大阪大学大学院工学研究科   教授 松 井   保
大阪大学大学院基礎工学研究科 教授 都 倉 信 樹(システム分科会委員長)
九州大学工学部        教授 平 川 賢 爾(プログラム評価分科会副委員長)
金沢大学工学部        教授 林   勇二郎(交代)
               教授 山 崎 光 悦
岡山大学工学部        教授 鷲 尾 誠 一
大阪府立大学工学部      教授 中 原 武 利
早稲田大学理工学部      教授 山 川   宏
慶應義塾大学理工学部     教授 安 西 祐一郎(交代)
               教授 只 野 金 一
芝浦工業大学工学部      教授 武 田 邦 彦
金沢工業大学工学部      教授 安 田 正 志
名古屋大学大学院工学研究科  教授 架 谷 昌 信(特別委員)
               教授 山 本   尚(検討委員会委員長)
               教授 高 木 不 折


事務連絡先: 〒464-8603 名古屋市干種区不老町
名古屋大学工学部工学研究科事務部長 平野 正博
電話:052-789-3401
FAX:052-789-3100